「食事キャンセル界隈」という言葉が、若い世代を中心に話題になっています。
食事にかかるお金や時間を「もったいない」と感じ、コスパ(コストパフォーマンス)やタイパ(タイムパフォーマンス)を重視して、朝食や昼食などをあえて抜くという考え方です。
「1日3食が当たり前」と考えると、少し驚くかもしれません。
しかし、歴史を振り返ってみると、人間がいつの時代も1日3食だったわけではありません。
日本にも1日2食が一般的だった時代があり、古代ギリシャや古代ローマなど、世界各地でも現代とは異なる食事習慣がありました。
では、いつから1日3食が当たり前になったのでしょうか。
そして、医学的には1日何食が最適なのでしょうか?
この記事では、日本と世界の食事回数の歴史をたどりながら、1日1食・2食・3食の違いや朝食の必要性などについて、現代の研究も交えて詳しく解説します。
食事キャンセル界隈とは?若者の間で食事を抜く人が増えている
「食事キャンセル界隈」とは、朝食や昼食など、本来食べる予定だった食事を抜いたり、食事の回数を減らしたりする人たちを表す言葉です。
「風呂キャンセル界隈」などから派生した表現で、2026年にはSNSやメディアでも取り上げられ、特に若い世代の食生活として注目されるようになりました。
なぜ若者は食事を「キャンセル」するのか?
背景として注目したいのが、お金と時間の問題です。
食事には食材代や外食費がかかります。自炊する場合も、買い物、調理、食事、片付けまで含めれば、それなりの時間が必要です。
そこで食費を抑えたり、食事に使う時間を減らしたりして、その分を別のことに使おうとする人もいます。
実際、私の知り合いにも、食費を減らしてでもオシャレや趣味にお金を使いたいという人がいます。
単純に「お金がないから食べない」のではなく、限られたお金の中で何を優先するのかという価値観の問題でもあるのでしょう。
一方で、もしお金にも時間にも十分な余裕があれば、食事をわざわざキャンセルせず、普通に食べる人も少なくないのではないでしょうか。
近年は食品を含むさまざまな商品の価格が上昇し、生活費の負担も大きくなっています。収入に対して自由に使えるお金が限られていれば、「食費を減らして趣味やファッションに回したい」と考える人が出てくることも不思議ではありません。
つまり「食事はコスパ・タイパが悪い」という言葉の裏側には、単なる若者の価値観だけではなく、物価上昇や家計の余裕といった経済的な事情も関係している可能性があります。
もちろん、食事を抜く理由は人それぞれです。
それでも「食事にどこまでお金と時間を使うのか」という考え方が話題になること自体、現代の社会状況を映しているともいえそうです。
では、食事の回数を減らすこと自体は、本当に現代特有の現象なのでしょうか。
実は歴史を振り返ると、「朝・昼・晩の1日3食」が当たり前ではなかった時代は珍しくありません。
次は、私たちが当たり前だと思っている「1日3食」がどのように成立したのかを見ていきましょう。
そもそも1日3食は当たり前ではなかった?
現在の日本では「朝食・昼食・夕食」の1日3食が一般的です。
ところが、日本の食生活を歴史的に見ると、長い間「朝と夕」の1日2食が基本だったと考えられています。
奈良時代には1日2食が一般的で、平安時代にもこの習慣は続いていました。ただし、すべての人が必ず2回しか食べなかったわけではありません。
農作業や肉体労働をする人などは、朝と夕の食事だけでは足りないため、その間に「中食(ちゅうじき)」や「間食(かんじき)」と呼ばれる食事をとることがありました。
つまり、
朝食 → 必要に応じて間食 → 夕食
という食べ方をしていた人もいたのです。
現在の「昼食」に近いものが、最初から正式な3回目の食事として存在していたわけではなく、生活や労働の必要性から追加されていた点が興味深いところです。
鎌倉・室町時代にも2食が基本だった
鎌倉時代になると、一部では1日3食の記録も見られるようになります。
例えば鎌倉時代初期には、宮中で1日3回食事をする例があったことが史料から確認されています。
しかし、これを「鎌倉時代から日本人全員が3食になった」と考えるのは正確ではありません。
武士や庶民などでは、その後も1日2食を基本とする生活が長く続いていました。
つまり、日本人の食事回数はある時点で一斉に「2食から3食」に切り替わったのではなく、身分や職業、生活環境によって少しずつ変化していったと考えた方が実態に近いでしょう。
1日3食が広く定着したのは江戸時代
大きな転換点となったのが江戸時代です。
農林水産省では、日本で朝・昼・夕の1日3食を食べるようになったのは江戸時代中頃と紹介しています。
また、国立国会図書館のレファレンス協同データベースに掲載された複数の文献でも、1日3食が一般化・定着した時期として江戸時代中期や元禄年間が挙げられています。
それまで正式な食事の間にとっていた「中食」などが次第に固定され、現在の昼食に近い位置付けになっていったのです。
こうして見ると、現代では当然のように感じる「朝・昼・晩」という生活も、日本の長い歴史の中では比較的新しく定着した習慣だということが分かります。
では、なぜ江戸時代になると1日3食が広まったのでしょうか?
単純に「昔より食べ物が豊富になったから」という理由だけではありません。
次は、日本人が1日2食から3食へ変わっていった理由を詳しく見ていきます。
江戸時代には食事回数だけでなく、外食や庶民の食文化も大きく発展しました。
当時の代表的な食文化の一つである「そば」については、こちらの記事で詳しく紹介しています。
関連記事:江戸時代はなぜそばが人気だった?うどんではなく蕎麦が江戸っ子に愛された理由
なぜ日本人は1日2食から3食になった?
日本で1日3食が広く定着したのは江戸時代中頃とされています。
では、なぜ長く続いていた1日2食の生活から、現在と同じ3食へ変化したのでしょうか。
実は、「健康のために3食にしよう」と考えられたことがきっかけではありません。
人々の生活時間や働き方など、社会そのものの変化が関係していたと考えられています。

夜まで活動するようになった
理由の一つとされているのが、照明の普及です。
電気のない江戸時代には、行灯(あんどん)などが室内の明かりとして使われていました。
こうした照明が普及すると、日が沈んだからといってすぐに一日の活動を終える必要がなくなります。
夜まで仕事をしたり、さまざまな活動をしたりするようになれば、起きている時間も長くなります。
農林水産省も、行灯が使われるようになって夜の活動時間が延び、お腹がすくようになったことを、3食化した理由の一つとして紹介しています。
肉体労働には2食では足りなかった
もう一つ重要なのが、働き方です。
もともと農民や武士など体を使う人の中には、朝と夕の2食だけでは足りず、昼食や夜食を補助的にとる人がいました。
つまり、正式な食事が2回だった時代にも、実際には必要に応じて途中で食べる習慣が存在していたのです。
それが次第に固定され、「3回目の食事」として定着していったと考えられています。
農林水産省「朝、昼、夕の1日3食を食べるようになったのはいつから?」
「3食」は生活の変化から生まれた
こうして見ると、日本で1日3食が広がった背景には、
・活動する時間が長くなった
・肉体労働などで多くのエネルギーが必要だった
・それまでの間食や昼食が次第に固定された
といった生活上の変化がありました。
現在では「1日3食=健康のため」というイメージもありますが、日本で3食が定着した歴史を見る限り、最初から医学的な理由によって決められた習慣ではなかったことが分かります。
人々の生活が変われば、食事の回数も変わる。
そう考えると、コスパやタイパを理由に食事回数を減らす「食事キャンセル界隈」も、方向こそ逆ですが、生活様式の変化が食事回数に影響しているという点では興味深い共通点があります。
では、日本以外ではどうだったのでしょうか。
次は、日本よりはるか昔の古代ギリシャの人々が1日に何回食事をしていたのかを見ていきます。
古代ギリシャ人は1日何食だった?
日本で1日2食が長く続いていたことを紹介しましたが、世界に目を向けると、食事回数はさらに複雑です。
例えば古代ギリシャでは、時代によって食事の回数や時間、食事を表す言葉そのものが変化していました。
そのため、「古代ギリシャ人は必ず1日○食だった」と単純に決めることはできません。
古典期のアテネでは2回の食事が中心だった
古典期のアテネでは、
アリストン(ariston)=軽い昼食
デイプノン(deipnon)=夕方の主要な食事
という2回の食事が一般的だったとされています。
特にデイプノンは一日の中心となる食事で、単に空腹を満たすだけでなく、人々が集まる社会的な場としても重要でした。
つまり、現代のように朝・昼・晩をほぼ同じように「3回の食事」と考えていたわけではなかったのです。
朝食を食べる習慣もあった
一方で、朝に何も食べなかったわけでもありません。
「アクラティスマ(akratisma)」と呼ばれる軽い朝食があり、パンをワインに浸したものなどが食べられていました。イチジクやオリーブなどを一緒に食べることもあったとされています。
紀元前4世紀以降には、この朝食をとる習慣が確認されるようになります。
そうなると、
朝食(akratisma)→ 昼食(ariston)→ 夕食(deipnon)
となり、現代と同じように一日に3回食べる形にも見えます。
さらに資料によっては、午後の軽食「ヘスペリスマ(hesperisma)」を含めて4種類の食事が紹介されることもあります。
「何食か」だけでは昔の食生活は分からない
ここで重要なのは、昔の食事を現代の「1日○食」という感覚だけで分類すると、実態が見えにくくなることです。
軽くパンを食べるだけの朝食と、人々が集まってしっかり食べる夕食では、同じ「1食」と数えても意味が大きく異なります。
また、古代ギリシャでは時代が変わるにつれて、食事の名称が指す時間帯まで変化しました。
つまり、人間の食事習慣を考える場合には、単純な回数だけではなく、
「いつ食べたのか」「どのくらい食べたのか」「どの食事を一日の中心としていたのか」まで見る必要があります。
この点は、後ほど「医学的には1日何食が最適なのか」を考える際にも重要になってきます。
そして古代ギリシャと並んで興味深いのが、古代ローマです。
古代ローマでも朝・昼・夕に相当する食事は存在しましたが、現代とは食事の重要度や時間帯がかなり異なっていました。
古代ローマ人は1日何食だった?
古代ローマには、現代の朝食・昼食・夕食に相当する食事が存在していました。
代表的なのが、
イェンタクルム(ientaculum)=朝の軽食
プランディウム(prandium)=昼頃の軽食
ケーナ(cena)=一日の中心となる食事
です。
これだけを見ると「古代ローマも1日3食だったのでは?」と思うかもしれません。
しかし、それぞれの食事の重要度は大きく異なっていました。
朝食「イェンタクルム」は必ず食べるものではなかった
イェンタクルムは朝にとる軽い食事で、パンを中心に、チーズや干した果物などが食べられることがありました。
ただし、すべてのローマ人が毎朝必ず食べていたわけではありません。
古代ローマの食事についてまとめた史料では、子どもや病人、肉体労働をする人などが朝食をとる例が紹介されています。
そのため、現代のように「朝食は一日の最初の正式な食事」と一律に考えるのは難しいところです。
昼食「プランディウム」も比較的簡単だった
昼頃には「プランディウム」と呼ばれる食事がありました。
こちらも一日の中心となるような豪華な食事ではなく、パンなどを簡単に食べて済ませることがありました。
正午から午後1時頃にとられることが多く、仕事中の兵士などが座らずに食べることもあったとされています。
現代でいえば、しっかりとした「ランチ」というより、空腹を満たすための軽食に近い場合もあったようです。
一日のメインは「ケーナ」
古代ローマで最も重要だったのが「ケーナ」です。
ケーナは一日の主要な食事で、時代によって食べる時間も変化しました。
古い時代には現在の昼食に近い時間帯だったとされますが、後には午後から夕方にかけて食べるようになっていきます。
裕福な人々の宴会では、前菜から肉・魚料理、果物や甘いものまで複数の料理が並ぶこともありました。
また、ケーナは単に栄養をとるだけではなく、家族や友人、仕事上の関係者などと交流する社会的な場でもありました。
「3種類の食事がある=現代と同じ3食」ではない
古代ローマには朝・昼・夕に相当する食事の名称があったため、形式上は「1日3食」と表現することもできます。
しかし、朝食や昼食をとらない人もおり、ケーナだけが一日の重要な食事となる生活もありました。
そのため、
「古代ローマ人は1日3食だった」とだけ説明すると、現代の食生活と同じような印象を与えてしまいます。
むしろ興味深いのは、一日に何回食べるか以上に、一回一回の食事の量や役割が大きく違っていたことです。
古代ギリシャと古代ローマを見ても、現在の「朝食・昼食・夕食を毎日食べる」というスタイルが、人間社会に普遍的なものではなかったことが見えてきます。
では、古代から時代が進んだ中世ヨーロッパではどうだったのでしょうか。
実は中世ヨーロッパでも、現在とはかなり異なる「1日2食」を中心とした食生活が見られました。
中世ヨーロッパでは1日何食だった?
古代ギリシャや古代ローマから時代が進み、中世ヨーロッパになると、現在とはかなり異なる食事の考え方が見られるようになります。
中世ヨーロッパでは地域や時代、身分によって違いがありますが、特に中世イングランドなどでは1日2回の食事が基本的なスタイルとして広く見られました。
代表的なのが、
ディナー(dinner)=日中に食べる主要な食事
サパー(supper)=夕方に食べる比較的軽い食事
です。
ここで面白いのが「ディナー」の時間です。
現代ではディナーというと夕食をイメージしますが、中世では一日の主要な食事を午前から昼頃にとることがありました。
つまり、「ディナー=夕食」という現在の感覚とは異なっていたのです。

朝食を食べないことが珍しくなかった
さらに現代との大きな違いが朝食です。
中世社会では、朝食が現在のように誰もがとる正式な食事として確立していたわけではありませんでした。
修道院生活にもその特徴が表れています。
6世紀に成立した「聖ベネディクトゥスの戒律」では、修道士の食生活について細かく定められている一方、基本となる食事は昼と夕方の2回で、現在のような朝食は主要な食事として位置付けられていません。
さらに中世のキリスト教社会では、夜間の断食をあまりに早い時間に破って食べることを好ましくないとする考え方もありました。
そのため、朝起きたらすぐに食事をすることが当然ではなかったのです。
肉体労働をする人は朝にも食べていた
ただし、ここでも「中世の人は朝食を食べなかった」と断定することはできません。
農民や職人など、朝から体を使って働く人にとっては、何も食べずに長時間働くのは現実的ではありません。
そのため、肉体労働をする人などは朝にも食べることがありました。
子どもや高齢者、病人などにも朝の食事が認められる場合があり、必要に応じて食事回数を増やしていたことが分かっています。
つまり、形式上は「1日2食」の社会でも、全員が同じ回数・時間に食べていたわけではなかったのです。
食事回数は「身分」や「仕事」によっても違った
ここまで日本、古代ギリシャ、古代ローマ、中世ヨーロッパを見てくると、一つ興味深い共通点が見えてきます。
それは、食事回数が単純な習慣ではなく、その人の仕事や身分、活動量、生活時間などによって変わっていたということです。
肉体労働をする人は途中で食事を追加する一方、それほど身体活動を必要としない人は食事を増やす必要がない場合もありました。
現代では「1日何食が健康にいいのか」という視点から食事回数を考えることが多いですが、歴史上の人々にとっては、生活そのものに合わせて食べる回数を調整することも珍しくなかったのです。
そしてヨーロッパでは、その後、朝食を含めた現在のような食生活が次第に広がっていきます。
では、ヨーロッパ以外の大きな文明圏ではどうだったのでしょうか。
次は、長い食文化の歴史を持つ中国では昔1日に何回食べていたのかを見ていきます。
中国では昔1日何食だった?
長い食文化を持つ中国でも、現在のような1日3食が最初から当たり前だったわけではありません。
古代中国では、一般の人々は長い間、朝と夕方を中心とした1日2食で生活していたとされています。
先秦時代の庶民は1日2食が基本だった
先秦時代の一般的な食事は、大きく2回に分かれていました。
一日の最初の食事が「朝食(ちょうしょく)」で、「饔(よう)」とも呼ばれました。
もう一つが午後にとる「餔食(ほしょく)」や「飧(そん)」です。
朝の食事の方が重要で、しっかりと食べ、午後の食事は比較的簡単に済ませることもあったとされています。
現代の「朝は軽く、夜にしっかり食べる」という人とは、むしろ反対に近い食生活だったわけです。
身分が高い人ほど食事回数が多いこともあった
ただし、古代中国でも全員が2食だったわけではありません。
一般庶民が2食を基本としていた時代にも、王や貴族などでは3食以上とる例がありました。
漢代になると2食と3食の両方の記録が見られ、さらに皇帝などの支配階級では食事回数が多くなる場合もありました。
つまり当時は、食事回数そのものが身分や経済力を反映することもあったのです。
食料を十分に確保できる人でなければ、好きなだけ食事回数を増やすことはできません。
この点は、現代の「何食が健康的か」という考え方とはかなり異なります。
経済の発展とともに3食が広がっていった
その後、中国では農業生産や都市経済が発展し、人々の食生活も変化していきます。
漢代にはすでに3食の例が確認されますが、一般の人々まで一斉に3食へ切り替わったわけではありません。
唐代などを経て食事のスタイルが変化し、宋代になると都市経済や飲食業が大きく発展します。
宋代の都市では飲食店や屋台なども栄え、一般の人々にも1日3食の習慣が広く浸透していったとされています。
この変化を見ると、食事回数は単なる空腹の問題ではなく、
食料をどれだけ確保できるか
どのような仕事や生活をしているか
社会や都市がどれだけ発展しているか
といった条件にも左右されてきたことが分かります。
興味深いことに、現代では食べ物が豊富に存在していても、物価上昇や時間の使い方などを理由に、あえて食事回数を減らす人が現れています。
かつては生活が豊かになるにつれて食事回数が増えていったのに対し、現代では別の価値を優先するために食事を減らすケースもある。
「食事キャンセル界隈」を歴史と比較すると、この違いも興味深いところです。
世界で「1日3食」が定着したのはなぜ?
ここまで見てきたように、日本、中国、古代ギリシャ、古代ローマ、中世ヨーロッパでは、食事の回数も時間もさまざまでした。
では、現在では多くの国で一般的になっている「朝食・昼食・夕食」というスタイルは、なぜ広がったのでしょうか。
その変化を考えるうえで重要なのが、産業化と人々の生活時間の変化です。
産業革命によって「決まった時間に働く」生活へ
18世紀後半以降、イギリスを中心に産業革命が進むと、多くの人が工場などで決められた時間に働くようになりました。
農業を中心とした生活では、日の出や天候、季節、仕事内容などに合わせて一日の予定を調整することができます。
しかし工場では、始業・休憩・終業といった時間に合わせて生活する必要があります。
すると食事についても、
仕事へ行く前に食べる
仕事の途中で食べる
仕事が終わってから食べる
というように、労働時間に合わせて区切りやすくなります。
食事が「空腹になったら食べるもの」だけではなく、社会の時間割の中に組み込まれていったのです。
昼食の役割も変わっていった
ヨーロッパでは、かつて日中に食べる「ディナー」が一日の主要な食事でした。
ところが生活時間が変化すると、ディナーの時間は次第に遅くなります。
朝食から夕方のディナーまで何も食べなければ、長い時間が空いてしまいます。
そこで、その間を埋める食事として「ランチ(lunch/luncheon)」が定着していきました。
現在では当たり前の「ランチ」も、食事時間の変化によって現在のような位置付けになっていったのです。
人工照明によって夜まで活動できるようになった
もう一つ大きな変化が、夜の過ごし方です。
照明が十分ではなかった時代には、太陽が沈めば活動できることも限られていました。
その後、ろうそくやランプ、ガス灯、さらに電灯へと人工照明が発達すると、人々は夜まで仕事や娯楽を続けられるようになります。
一日の活動時間が長くなれば、食事をとる時間帯も変わります。
これは日本で江戸時代に3食が普及していった背景と重なる部分があります。
3食は「医学が決めた回数」ではなかった
ここまでの歴史を見ると、1日3食という習慣は、
「人間の体には3回食べるのが最も健康的だから、世界中で3食になった」という単純な理由で成立したわけではないことが分かります。
食料事情、仕事、身分、都市化、照明、生活時間など、さまざまな社会的要因によって食事の回数と時間は変化してきました。
そして近代化が進むにつれて、学校や会社など社会全体の時間割も整備され、朝・昼・夕という食事のリズムも生活の中に組み込まれていきます。
現在の「1日3食」は、人間の長い歴史の中で形成されてきた生活習慣でもあるのです。
そうなると気になるのが、
「歴史的に3食が絶対ではないなら、健康のためには本当は何回食べればいいのか?」という問題です。
ここからは歴史ではなく、現代の医学・栄養学の研究から「1日何食が最適なのか」を見ていきましょう。
医学的に最適な食事回数は1日何食?
ここまで歴史を見てきましたが、最も気になるのは、
「結局、健康のためには1日何食がいいの?」という疑問ではないでしょうか。
1日3食が健康的というイメージがある一方で、「2食の方が太りにくい」「少量を5~6回に分けた方がいい」「1日1食が健康にいい」など、正反対の情報も見かけます。
しかし、現在の研究では、健康な成人について**「全員にとって1日○食が最適」と断定できるほど明確な答えは出ていません。**

食事回数を増やせば健康になるとは限らない
2023年に発表されたランダム化比較試験の系統的レビューでは、成人の食事回数を、
1日3回以下
と
1日4回以上
に分け、体重や血糖、血中脂質などへの影響が比較されました。
その結果、食事回数が少ない場合と多い場合のどちらかが、明確に優れているとは確認できませんでした。
ただし、この研究分野には小規模な試験が多く、研究の質にも課題があるため、「何回食べてもまったく同じ」と証明されたわけでもありません。
現時点では、食事回数だけを見て健康効果を判断するには、まだ研究が不足しているというのが実情です。
「1日2食の方が痩せる」という研究もある
一方で、食事回数を減らすことにメリットがある可能性を示した研究もあります。
2020年に22件のランダム化比較試験をまとめた研究では、同程度のエネルギー摂取量という条件で比較した場合、1日2食は3食や6食より体重がわずかに減少する結果が示されました。
しかし、研究者自身も「食事回数を減らすことが有益だとする強固な証拠はほとんどない」と結論付けています。
さらに、2024年に発表された別の研究では、食事回数を少なくする方法や食べる時間帯を制限する方法によって、体重がわずかに減少する可能性が示されました。
ただし、その差は小さく、長期的な健康への影響についてはまだ不明な点があります。
つまり、
「2食なら必ず痩せる」
「3食なら必ず健康になる」
「食事回数を増やせば代謝が上がる」
といった単純な話ではありません。
「何回食べるか」だけでなく「何を・いつ・どれだけ食べるか」
食事回数について考えるときに注意したいのが、同じ「1日2食」でも内容はまったく違うということです。
例えば、
朝食を抜いて昼と夜に大量に食べる2食
と、
朝と昼に十分な栄養をとり、夜遅くには食べない2食
では、同じ2食でも食事の時間や摂取量が異なります。
1日3食でも、毎食バランスよく食べる場合と、夕食だけ極端に多く食べる場合を同じものとして扱うことはできません。
近年は、食事回数だけでなく、**「一日のどの時間帯にエネルギーを摂取するのか」**も研究されています。
2024年のランダム化比較試験をまとめた研究では、食事回数を減らすことだけでなく、摂取エネルギーを一日の早い時間帯に多く配分する方法にも、体重管理上の小さなメリットが示されました。
そのため、医学的に食生活を考えるなら、
何回食べるか
だけを気にするより、
何を食べるか
どのくらい食べるか
何時ごろ食べるか
まで含めて考える必要があります。
「1日3食」は絶対的な医学ルールではない
歴史編では、1日3食という習慣が社会や生活時間の変化によって形成されてきたことを紹介しました。
医学的に見ても、「健康な人は必ず朝・昼・晩の3回食べなければならない」という単純なルールが確立されているわけではありません。
だからといって、「それなら食事キャンセルをしても問題ない」と結論付けることもできません。
食事を減らした結果、一日に必要なエネルギーやたんぱく質、ビタミン、ミネラルなどまで不足してしまえば、食事回数とは別の問題が生じます。
重要なのは、食事回数を目的にするのではなく、自分に必要な栄養をどのように確保するかという視点です。
では、「食事キャンセル界隈」で特に抜かれやすい朝食についてはどうなのでしょうか。
次は、**「朝食は本当に食べた方がいいのか?」**を研究結果から見ていきます。
朝食は本当に食べた方がいい?
「朝食は一日の中で最も大切な食事」
「朝食を抜くと太る」
こうした話を聞いたことがある人は多いのではないでしょうか。
食事キャンセル界隈でも、仕事や学校へ行く前の忙しい時間帯にある朝食は、比較的「キャンセル」しやすい食事でしょう。
では、医学的に見ても朝食は必ず食べるべきなのでしょうか。

朝食を食べる人の方が健康的という研究は多い
朝食については、これまで数多くの研究が行われています。
観察研究では、朝食を習慣的に食べる人の方が、朝食を抜く人より肥満や2型糖尿病、心血管疾患などのリスクが低い傾向を示した研究があります。
ただし、ここには注意が必要です。
「朝食を食べたから健康になった」とは限らないからです。
朝食を毎日食べる人は、生活リズムが規則的だったり、運動習慣があったり、食生活全体にも気を配っていたりする可能性があります。
反対に朝食を抜く人には、夜更かしや夜遅い食事など、別の生活習慣が関係している場合もあります。
そのため、朝食だけを取り出して健康への影響を判断するのは簡単ではありません。
「朝食を抜くと太る」とは言い切れない
興味深いのが、実際に朝食を食べるグループと食べないグループを比較したランダム化比較試験です。
2019年に複数の試験をまとめた研究では、朝食を食べることが減量につながるという明確な証拠は確認されませんでした。
さらに、朝食を食べたグループの方が、一日の総摂取エネルギーが多くなる傾向も確認されています。
つまり、
「朝食を食べれば痩せる」あるいは、
「朝食を抜けば必ず太る」と単純に考えることはできません。
だからといって朝食を抜けばいいわけでもない
一方、「朝食を食べなくても痩せるなら、毎日抜けばいい」と考えるのも早計です。
朝食を抜いたことで強い空腹を感じ、昼食や夕食を大量に食べてしまう人もいます。
また、1日の食事回数が減れば、それだけ1回の食事で必要な栄養を確保する必要があります。
食事を抜いた結果、総摂取カロリーだけでなく、たんぱく質や食物繊維、ビタミン、ミネラルなどまで不足してしまうのであれば問題です。
反対に、朝に食欲がなくても、昼食や夕食などで必要な栄養を十分にとれている人もいるでしょう。
重要なのは、「朝食を食べたか」という一つの条件だけではなく、一日全体の食生活を見ることです。
子どもと大人を同じように考えない
ここで注意したいのが、子どもや成長期の若者です。
成人について「朝食を食べるだけで痩せるとは証明されていない」という研究結果があるからといって、それをそのまま成長期の子どもに当てはめることはできません。
成長期には身体の発育に必要なエネルギーや栄養素を確保する必要があります。
また、朝食と学習・生活リズムとの関連についても研究されています。
そのため、SNSなどで紹介されている「朝食不要論」を、年齢や生活状況を考えずに誰にでも当てはめるのは避けた方がよいでしょう。
朝食を食べるかどうかより「その後」が重要
朝食について現在の研究から言えるのは、「全員が必ず朝食を食べれば健康になる」というほど単純ではないということです。
朝食を抜いた後に、
昼と夜で必要な栄養を確保できているのか
空腹からドカ食いしていないか
夜遅い時間に食事が集中していないか
といった点まで含めて考える必要があります。
そして朝食を抜くよりさらに食事回数を減らしたものが、近年注目されている「1日1食」です。
食事回数の歴史を見ると少ない回数で生活していた人々は確かに存在しましたが、それだけを根拠に「現代人にも1日1食が健康的」と判断することはできません。
次は、1日1食には本当に健康効果があるのかを見ていきましょう。
1日1食は健康にいい?
1日2食よりさらに食事回数を減らした「1日1食」。
芸能人や著名人が実践している食事法として紹介されたり、「空腹の時間を作ると健康になる」「1日1食なら痩せる」といった情報を見かけたりすることもあります。
英語では「One Meal A Day」の頭文字から「OMAD」と呼ばれ、断続的断食の一種として扱われることもあります。
では、本当に1日1食は健康にいいのでしょうか。
1日1食と3食を比較した研究もある
1日1食については、人を対象にした比較試験も行われています。
2007年に発表された研究では、健康で標準体重の中年男女を対象に、必要なエネルギーを
1日1食で食べる期間
と
1日3食で食べる期間
に分けて比較しました。
重要なのは、単純に食事を2回減らした研究ではないことです。
1日1食の場合でも、基本的には体重を維持するために必要なエネルギー量を確保するよう調整されていました。
そのため、「食事回数そのものを変えると何が起こるのか」を比較しやすい研究になっています。
体重が減るなどの変化が見られた一方で……
この研究では、1日1食の期間に体重や体脂肪量がわずかに減少するなど、一部の指標に変化が見られました。
しかし、すべてが良い方向に変化したわけではありません。
別の解析では、1日3食の場合と比べて、1日1食では朝の空腹時血糖値が高くなり、経口ブドウ糖負荷試験でも血糖値の上昇が大きく、インスリン反応が遅れる結果が報告されています。
また、1日1食では空腹感が強くなったという結果もあります。
つまり、
「食事回数を減らせば減らすほど健康になる」
とは言えない結果だったのです。
反対の結果を示した研究もある
一方、2022年には健康でやせ型の成人を対象として、1日1食と3食を比較した別の研究が発表されています。
参加者は1日分のエネルギーを午後5時から7時の間にまとめて食べ、11日間生活しました。
この研究では、1日1食で体重や体脂肪量が減少し、運動中の脂肪酸化が増加しました。
さらに、筋力や有酸素運動能力に明確な悪影響は確認されませんでした。
これだけを見ると、1日1食には大きなメリットがあるようにも見えます。
しかし、この研究を完了した参加者は11人で、期間も11日間です。
数週間、数か月、数年と1日1食を続けた場合にも同じ結果になるとは限りません。
1回で必要な栄養をとる難しさもある
1日1食を実生活で行う場合、研究とは別の問題もあります。
例えば1日に必要なエネルギーが2,000kcalの人がいるとします。
3食なら、
朝・昼・夕に分けて食べることができます。
しかし1日1食なら、その1回の食事だけで必要なエネルギーや栄養素を確保しなければなりません。
たんぱく質、食物繊維、ビタミン、ミネラルなどを十分に摂取しようとすると、一度にかなりの量を食べる必要が出てくる場合があります。
「1日1食にした結果、食事量そのものが大幅に減った」という場合には、単に食事回数が変わっただけではなく、摂取エネルギーや栄養素まで減っていることになります。
1日1食と「食事キャンセル」は同じではない
ここは今回の記事で特に重要なポイントです。
研究で行われる1日1食では、決められた条件のもとで必要なエネルギー量を確保するよう調整されることがあります。
一方、「時間がもったいない」「食費を減らしたい」という理由で朝食や昼食をキャンセルし、夕食だけ普通に食べた場合はどうでしょうか。
その場合、
3食分の栄養を1食にまとめているのではなく、単純に2食分を食べなくなっている可能性があります。
これは研究で検討される計画的な食事制限とは条件が異なります。
「1日1食を研究した論文がある」という事実だけを根拠に、
「だから食費や時間を節約するために2食抜いても健康上問題ない」と考えることはできません。
現時点では「1日1食が最適」とは言えない
1日1食については興味深い研究結果がある一方、長期的な研究はまだ十分ではありません。
短期間の試験では体重や脂肪代謝などにメリットが見られた研究もあれば、血糖調節などで好ましくない変化が見られた研究もあります。
そのため現時点では、
「人間は本来1日1食でいい」
「1日1食にすれば健康になる」
と一般化するのは難しいでしょう。
そして、ここで区別しておきたいのが「1日1食」と「断続的断食」です。
断続的断食には、毎日1回しか食べない方法だけではなく、「食べる時間帯を一定の範囲に収める」という方法もあります。
次は、近年よく聞く**「16時間断食などの断続的断食はどうなのか?」**を見ていきます。
16時間断食・断続的断食は健康にいい?
1日1食と関連してよく聞くのが「16時間断食」です。
例えば夜8時に夕食を終え、翌日の昼12時まで食べなければ、食べない時間は16時間になります。
残りの8時間以内に食事をとるため、「16時間断食」「8時間ダイエット」などと呼ばれることがあります。
研究では、このように1日の食事可能な時間を一定範囲に制限する方法を**時間制限食(Time-Restricted Eating:TRE)**と呼びます。

16時間断食=1日1食ではない
まず区別したいのが、16時間断食と1日1食は同じではないということです。
例えば食事可能な時間を12時~20時に設定した場合、その8時間の中で昼食と夕食の2回を食べることもできます。
方法によっては朝食と昼食を中心にして、夕食を早い時間に終えることもできます。
重要なのは「何回食べるか」ではなく、一日のうち食事をする時間帯を限定することです。
体重や代謝にメリットがある可能性
時間制限食については、近年多くの研究が行われています。
2024年に発表された13件のランダム化比較試験をまとめた研究では、一日の早い時間帯に食事を集中させる時間制限食によって、通常の食事と比較して体重や体脂肪、ウエスト周囲径などが減少する結果が示されました。
さらに近年の複数の研究でも、時間制限食によって体重、血糖、インスリンなど、一部の代謝指標が改善する可能性が報告されています。
そのため、時間制限食そのものを「意味のない食事法」と考える必要はありません。
「16時間空ければ何を食べてもいい」わけではない
ただし、ここで誤解してはいけないのが、
「16時間何も食べなければ、残り8時間は好きなだけ食べても健康になる」というわけではないことです。
時間制限食を行うことで、夜食や間食が減り、結果として一日の総摂取エネルギーが減ることもあります。
一方、摂取カロリーをそろえた条件でも一定の効果を示した研究はあり、単純に「食べる量が減っただけ」とも言い切れません。
食事時間と人間の体内時計との関係も研究されています。
特に、食事を夜遅くまで続けるより、一日の早い時間帯に食事時間を設定する方法にメリットがある可能性が示されています。
つまり「16時間」という数字だけを見るのではなく、何時から何時まで食べるのかも重要なのです。
効果があっても「誰にでも最適」とは限らない
時間制限食には一定の研究成果がありますが、「健康な人は全員16時間断食をするべき」という段階にはありません。
研究によって食事可能時間や実施期間、参加者の年齢、体重、健康状態なども異なります。
また、2025年に発表されたランダム化比較試験のメタ解析では、過体重・肥満の成人において、摂取カロリーをそろえて比較すると、時間制限食で空腹感が強くなる可能性も報告されています。
長時間食べない生活が苦にならない人もいれば、空腹が強くなり、その後の食事量が増えてしまう人もいるでしょう。
続けやすさにも個人差があります。
「計画的な断食」と「食事キャンセル」は目的が違う
そして今回の記事で最も区別しておきたいのが、この点です。
時間制限食は、
「何時から何時まで食べる」というルールを決め、その時間内で必要な食事をとる方法です。
一方、「食事キャンセル界隈」で語られる食事抜きには、
「食費を使いたくない」
「食べる時間がもったいない」
「食事を用意するのが面倒」
といった理由もあります。
例えば朝食と昼食を抜き、夕食も簡単なもので済ませた場合、それは必ずしも医学研究で行われている時間制限食と同じではありません。
食事をする時間を管理しているのではなく、必要な食事や栄養そのものが減っている可能性があるからです。
したがって、
「断食には健康効果を示した研究があるから、食事をキャンセルしても健康にいい」と考えることはできません。
同じ「食べない時間を作る」という行動でも、目的や食事内容、摂取エネルギー、栄養状態によって意味は大きく変わります。
食事回数だけに注目するのではなく、「一日を通して必要な栄養を確保できているか」を見る必要があるのです。
食事回数より重要なのは何?
ここまで1日1食、2食、3食、さらに時間制限食について見てきました。
研究結果を総合すると、「何回食べるか」だけで健康的な食生活かどうかを判断するのは難しいことが分かります。
そこで重要になるのが、食事回数ではなく、一日全体でどのような食生活になっているかという視点です。
必要なエネルギーと栄養を確保できているか
まず確認したいのが、一日に必要なエネルギーと栄養素をとれているかです。
仮に1日2食でも、その2回で必要なエネルギーや栄養素を確保できているのであれば、「3食ではない」という理由だけで問題があるとは言えません。
反対に1日3食でも、
菓子パンだけの朝食、カップ麺だけの昼食、栄養バランスが偏った夕食という生活なら、「3回食べているから健康的」とは言えないでしょう。
厚生労働省と農林水産省の「食事バランスガイド」でも、食事を主食・副菜・主菜・牛乳・乳製品・果物などに分け、一日に何をどの程度食べるかという考え方が示されています。
単純な食事回数より、食事全体の内容を見ることが大切なのです。
食事を減らした結果、何が減ったのか
これは「食事キャンセル」を考えるうえでも重要です。
例えば昼食をキャンセルしたとします。
それまで昼食からとっていたエネルギーやたんぱく質、野菜などを朝食や夕食で補っているのであれば、単純に食事の回数が変化したと考えることができます。
しかし、
昼食を抜いて、ほかの食事は以前と同じという生活なら、一日の摂取量そのものが減っている可能性があります。
食費を節約するために食事を減らしている場合には、特にこの違いを考える必要があります。
「何食食べたか」ではなく、食事を減らした結果として何が不足したのかを見るわけです。
食事の時間帯にも注目したい
前章で紹介した時間制限食の研究からも分かるように、食事では「いつ食べるか」も研究されています。
人間の身体には概日リズム(サーカディアンリズム)と呼ばれる約24時間周期の仕組みがあり、睡眠だけでなく代謝にも関係しています。
そのため、同じ食事をする場合でも、日中に食べる場合と深夜に食べる場合がまったく同じとは限りません。
例えば、食事を抜いたことで夕食が極端に多くなったり、深夜まで間食を続けたりするようになれば、「食事回数を減らした」という情報だけでは実際の食生活を評価できません。
続けられる食生活かどうかも重要
もう一つ見落とされやすいのが、継続できるかどうかです。
「健康のために16時間断食をする」と決めても、強い空腹を我慢し続けなければならず、反動で食べ過ぎてしまうのであれば、その人には合っていない可能性があります。
反対に朝はほとんど食欲がなく、無理に朝食を食べることで一日の摂取量が過剰になってしまう人もいるでしょう。
仕事の時間、学校、運動量、睡眠時間などによっても、無理なく続けられる食事パターンは変わります。
「○食が正解」ではなく食生活全体を見る
結局のところ、食事回数だけで健康状態が決まるわけではありません。
重要なのは、
必要なエネルギーを確保できているか
たんぱく質やビタミン、ミネラルなどが不足していないか
食事が夜遅い時間帯に偏りすぎていないか
極端な空腹や食べ過ぎを繰り返していないか
無理なく続けられる生活になっているか
といった点です。
「1日3食だから健康」「2食だから不健康」というように回数だけで判断するより、一日の食生活全体を見る方が実際的でしょう。
そして、この考え方を踏まえると、今回の記事の出発点だった「食事キャンセル界隈」についても違った見方ができます。
歴史上、人間の食事回数は何度も変化してきました。
では、現代の若者が食事を「キャンセル」する現象は、その長い歴史の中でどのように考えればいいのでしょうか。
「食事キャンセル界隈」は歴史的に見ると本当に珍しい?
「食事キャンセル界隈」という言葉だけを見ると、食事を面倒に感じる現代の若者に特有の新しい文化のようにも見えます。
しかし、ここまで紹介してきた歴史を振り返ると、1日3食を食べないこと自体は決して珍しいことではありません。
日本では長い間1日2食が基本だった時代があり、古代ギリシャや古代ローマ、中世ヨーロッパ、中国でも、現在とは異なる食事回数や食事時間で生活していました。

では、現代の食事キャンセルも昔の2食生活と同じなのでしょうか。
実は、ここには大きな違いがあります。
昔の2食と現代の「食事キャンセル」は理由が違う
昔の人々が2食で生活していた背景には、当時の生活時間や労働、食料事情、身分、照明など、さまざまな社会的条件がありました。
そもそも「朝・昼・晩の3食を食べる」という生活を前提として、そのうち1食を意識的にキャンセルしていたわけではありません。
一方、現代の日本には朝食・昼食・夕食という3食の生活パターンが広く定着しています。
その中で、
「食費を節約したい」
「食事に時間を使いたくない」
「食べるより趣味にお金を使いたい」
「用意や片付けが面倒」
などの理由から、食事を意識的に省略する人が現れています。
つまり、結果だけを見ればどちらも「1日2食」だったとしても、そこに至った社会的背景は同じではありません。
「食事の優先順位」が変わっているのかもしれない
現代の食事キャンセルで特に興味深いのが、食事とほかの消費を比較する考え方です。
食事には、お金だけでなく時間も必要です。
外食なら店へ行く時間、自炊なら買い物や調理、後片付けも必要になります。
一方、そのお金や時間をファッション、ゲーム、推し活、旅行、美容などに使うこともできます。
限られた収入と時間の中で、
「食事より自分が好きなものを優先したい」と考える人がいても不思議ではありません。
これは単なる「食への無関心」だけではなく、何にお金と時間を配分するのかという優先順位の変化として見ることもできます。
食事を作る時間がないなら「食べない」以外の選択肢も
食事を抜く理由が「料理する時間がない」「準備や片付けが面倒」という場合は、食事そのものをなくすのではなく、調理の手間を減らす方法もあります。
冷凍宅配食や簡単に食べられる食品などを利用すれば、自炊にかかる時間を抑えながら食事をとることもできます。
食事回数を減らすことだけでなく、「食事にかかる手間を減らす」という方法も選択肢の一つです。
物価上昇も無視できない
さらに現在は、食料品を含むさまざまな商品の価格が上昇しています。
総務省の消費者物価指数でも、近年の日本では食料価格の上昇が確認されています。
収入が同じでも食料品や生活必需品の価格が上がれば、自由に使えるお金は相対的に少なくなります。
そのような状況では、
「昼食に1,000円使うなら別のことに使いたい」
「朝食を買わずに節約したい」
と考える人が出てくる可能性もあります。
もちろん、食事キャンセルをする人全員が経済的に困っているわけではありません。
単純に朝は食欲がない人もいれば、食事そのものへの関心が低い人、時間を節約したい人もいるでしょう。
そのため「景気が悪いから食事キャンセルが流行した」と一つの原因だけで説明することはできません。
それでも、食料価格や生活費といった経済環境も、この現象を考えるうえで無視できない要素の一つでしょう。
食事回数が変わること自体は歴史上何度も起きている
ここで歴史と現代がつながります。
日本で2食から3食へ変化したときも、人間の身体が突然変化したわけではありません。
働き方や活動時間、都市生活など、人々を取り巻く環境が変化しました。
世界各地でも、都市化や産業化、労働時間の変化などとともに食事のスタイルは変わってきました。
そして現代では、物価、働き方、スマートフォン、娯楽、タイパ・コスパという価値観など、過去にはなかった環境の中で生活しています。
そう考えると、「食事キャンセル界隈」は完全に突拍子もない現象というより、社会や生活様式の変化によって食事のあり方が変わるという、歴史上繰り返されてきた現象の現代版と捉えることもできます。
ただし、「昔の人も2食だった」という理由だけで、現代人が食事を抜いても健康上問題ないとは言えません。
昔と現代では生活環境も食事内容も異なります。
医学的に重要なのは「3食食べたか」ではなく、食事を減らした結果として必要なエネルギーや栄養素まで不足していないかどうかです。
「食事キャンセル」という新しい言葉の背景を考えていくと、実はそこには、食事・お金・時間をどのように配分して生きるのかという、現代人の生活そのものの変化が表れているのかもしれません。
まとめ|「1日3食」は絶対ではないが、食事を減らせばいいわけでもない
今回は「食事キャンセル界隈」をきっかけに、日本や世界の食事回数の歴史と、医学的に最適な食事回数について見てきました。
現代の日本では「朝・昼・晩の1日3食」が一般的ですが、人類の歴史を振り返れば、これは決して普遍的な食事スタイルではありません。
日本にも1日2食が一般的だった時代があり、古代ギリシャ、古代ローマ、中世ヨーロッパ、中国などでも、時代や身分、仕事、生活環境によって食事の回数や時間は大きく異なっていました。
食事回数は、食料事情だけでなく、都市化、労働時間、照明の普及など、人々の暮らしの変化とともに変わってきたのです。
そして現代医学でも、
「健康な成人なら必ず1日3食が最適」
あるいは、
「1日2食や1食の方が健康にいい」
と一律に決められるほど明確な答えは出ていません。
朝食、1日1食、時間制限食などについてもさまざまな研究がありますが、特定の食事回数だけですべての人の健康を説明することはできません。
大切なのは、回数だけを見るのではなく、
一日に必要なエネルギーや栄養を確保できているか
食事内容が極端に偏っていないか
食べる時間帯が生活リズムに合っているか
無理なく続けられる食生活になっているか
という点です。
これは「食事キャンセル界隈」について考える場合も同じです。
食事を1回抜いたからといって、ただちに不健康になると決めつけることはできません。
一方で、「昔の人も1日2食だった」「断食には健康効果があるらしい」という理由だけで、食費や時間を節約するために食事を減らしても問題ないと考えることもできません。
特に、食事を減らした結果として必要な栄養まで不足してしまえば、それは単なる「食事回数の違い」ではなくなります。
歴史を振り返ると、人々の食事回数は社会や生活の変化に合わせて何度も変わってきました。
もしかすると「食事キャンセル界隈」も、コスパやタイパ、物価、趣味や娯楽などに対する価値観が変化した現代だからこそ生まれた、新しい食生活の一つなのかもしれません。
「1日何食が正解なのか」だけを考えるのではなく、自分の生活の中で必要な栄養をどのように確保するのか。
これからの食生活では、そんな考え方がより重要になっていくのではないでしょうか。
宅配食なら買い物・準備・片付けの時間が短縮できてタイパがいいかもしれません。



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