世界には、長年にわたって研究されているにもかかわらず、いまだに意味が分かっていない文字や暗号が存在します。
古代文明が残した謎の文字、孤島に残された不思議な記号、暗号の専門家でも完全には解くことができない暗号文――。
中には100年以上、あるいは数千年もの間、その意味が分からないまま残されているものもあります。
「いったい何が書かれているのか?」
「そもそも本当に文字なのか?」
「誰が、何のために残したのか?」
わずかな手掛かりをもとに世界中の研究者が解読へ挑戦していますが、決定的な答えが見つかっていないものも少なくありません。
また、「未解読文字」と「未解決暗号」は似ているようで少し違います。
未知の文字体系そのものを読み解かなければならないものもあれば、使用されている文字は読めても、暗号化された内容を復元できないものもあります。
この記事では、そんな世界に残る未解決暗号・未解読文字を10個厳選し、それぞれの特徴や発見された場所、これまでに考えられてきた解読説、そしてなぜ現在まで解読できていないのかを紹介します。
人類がまだ読むことのできない「謎のメッセージ」の世界を見ていきましょう。
- 未解決暗号と未解読文字は何が違う?
- 未解決暗号とは?
- 未解読文字とは?
- 「未解読文書」というタイプもある
- 解読には「比較できる資料」が重要
- ① インダス文字|約4,000年前の文明が残した未解読文字
- ② 線文字A|線文字Bは解読されたのになぜ読めない?
- ③ ロンゴロンゴ|イースター島に残された謎の文字
- ④ ファイストスの円盤|渦巻き状に刻まれた謎の記号
- ⑤ ヴォイニッチ手稿|100年以上解読されていない謎の写本
- ⑥ ローホンク写本|448ページを埋め尽くす正体不明の文字
- ⑦ ドラベラ暗号|作曲家エルガーが残した87文字の暗号
- ⑧ クリプトス|CIA本部に設置された最後の未解決暗号
- ⑨ D’Agapeyeff暗号|作者自身も解き方を忘れた未解決暗号
- ⑩ タマム・シュッド事件の文字列|暗号なのかすら分からない謎のメモ
- なぜ現代でも未解読の文字や暗号が残っているのか?
- かつては未解読だった文字は、どうやって解読された?
- AIなら未解読文字や暗号を解読できる?
- 世界の未解決暗号・未解読文字に関するよくある質問
- まとめ|世界には今も読めない文字や暗号が残されている
未解決暗号と未解読文字は何が違う?
「未解決暗号」と「未解読文字」。
どちらも「何が書いてあるのか分からないもの」という点では似ていますが、実は同じものではありません。
この記事をより楽しむために、まずは両者の違いを簡単に整理しておきましょう。
未解決暗号とは?
暗号とは、もともと意味のある文章や情報を、第三者に簡単には読まれないよう一定の方法で変換したものです。
つまり、
「元の言語や文字は存在しているが、何らかのルールによって読めない状態にされている」ものと考えると分かりやすいでしょう。
単純なものでは文字を別の文字へ置き換える方法がありますが、複数の規則を組み合わせたり、特定の鍵を知らなければ元に戻せなかったりする暗号もあります。
作成者や使用された暗号方式が分からず、現在まで元の文章を復元できていないものが「未解決暗号」と呼ばれます。
今回紹介するものでは、CIA本部に設置されている暗号彫刻「クリプトス」などが代表的です。
未解読文字とは?
一方の未解読文字は、もっと根本的な問題を抱えています。
「そもそも、その文字をどう読むのか分からない」のです。
例えば古代インダス文明で使用された「インダス文字」では、多数の記号が発見されています。
しかし、その記号がどのような音や言葉を表しているのかについて、現在も研究者の間で合意された解読には至っていません。
暗号であれば、
「AをDに置き換えているのでは?」
「一定の順番で文字をずらしているのでは?」
といった方法を考えることができます。
しかし未知の文字体系の場合、
「この記号は文字なのか?」
「音を表しているのか?」
「単語そのものを表しているのか?」
「どの言語を書いたものなのか?」
というところから考えなければならない場合があります。
そのため、解読の難易度は非常に高くなります。
「未解読文書」というタイプもある
さらに、この2つの中間のように見えるものもあります。
代表的なのが「ヴォイニッチ手稿」です。
ヴォイニッチ手稿には大量の文字らしき記号が書かれていますが、その文章が何語なのか、暗号なのか、人工的に作られた文字なのかについて決着していません。
このような資料では、
「未知の文字なのか、暗号なのか、それ以外の仕組みなのか」という分類そのものが謎になっている場合もあります。
世界の未解読資料が面白いのは、この点です。
単純に暗号を解けば終わりとは限りません。
解読には「比較できる資料」が重要
未知の文字を解読するうえで大きな手掛かりになるのが、同じ内容を別の既知の言語でも記した資料です。
有名なのが「ロゼッタ・ストーン」。
同じ内容が複数の文字で記されていたことが、古代エジプトの文字を読み解くための重要な手掛かりとなりました。
ところが、すべての未解読文字にそのような幸運な資料が残されているわけではありません。
残された文章が極端に短かったり、資料そのものが少なかったり、どの言語を記録したものなのか分からなかったりすることもあります。
数千年前の文字ともなれば、当時その文字を読めた人々に直接聞くこともできません。
そのため、
文字は目の前に残っているのに、そこに書かれた言葉だけが失われている
という不思議な状態が、現代まで続いているのです。
今回紹介する10個の謎も、「なぜ読めないのか」という理由はそれぞれ異なります。
それではここから、人類が現在も解読に挑み続けている未解決暗号・未解読文字を見ていきましょう。
① インダス文字|約4,000年前の文明が残した未解読文字
世界の未解読文字を語るうえで、まず外せないのが「インダス文字」です。
インダス文字は、現在のパキスタンやインド北西部を中心に栄えた「インダス文明」で使用されていた文字体系です。
インダス文明は、モヘンジョ・ダロやハラッパーなどの大規模な都市を築いたことで知られています。
整然とした街路や高度な排水設備を持つ都市を建設し、遠く離れたメソポタミア方面とも交易を行っていたと考えられています。
ところが、これほど高度な都市文明を築いた人々が残した文字を、現代の私たちはいまだに読むことができません。

動物と謎の記号が刻まれた「印章」
インダス文字は、石で作られた小さな印章や粘土板、土器などから発見されています。
特に有名なのが「インダス式印章」です。
印章には、
・牛のような動物
・ゾウ
・サイ
・水牛
・「ユニコーン」と呼ばれる一角獣のような動物
などが描かれ、その上部などに短い記号の列が刻まれています。
これがインダス文字です。
記号には魚のような形をしたものや、人間、植物、幾何学模様を思わせるものなど、さまざまな形があります。
一見すると古代エジプトのヒエログリフのようにも見えますが、両者に直接的な関係が確認されているわけではありません。
最大の問題は「文章が短すぎる」こと
インダス文字が解読できない最大の理由の一つが、残された文章の短さです。
発見されている文字列の多くは非常に短く、印章に刻まれたものでは十数文字にも満たないケースが珍しくありません。
これでは、
「この文字は文章の最初によく現れる」
「この単語は特定の人物名の後に使われる」
といった言語の規則性を十分に調べることが難しくなります。
もし数百文字、数千文字に及ぶ長文が発見されれば、同じ記号の繰り返し方や文章構造を比較できるため、解読が大きく進む可能性があります。
しかし現在まで、そのような長文資料は発見されていません。
「ロゼッタ・ストーン」のような資料も見つかっていない
もう一つの大きな問題が、既知の言語との対訳資料がないことです。
古代エジプト文字の解読では、同じ内容が複数の文字で記されたロゼッタ・ストーンが大きな手掛かりとなりました。
一方、インダス文字には、
「このインダス文字の文章と、この既知の言語の文章は同じ意味です」と比較できる決定的な資料が見つかっていません。
インダス文明はメソポタミアと交易していたことが分かっており、メソポタミアの遺跡からインダス式の印章も発見されています。
そのため、将来的にインダス文字と楔形文字などが併記された資料が発見されれば、解読への大きな突破口になる可能性があります。
しかし、現時点ではそのような「インダス版ロゼッタ・ストーン」は発見されていません。
そもそも何語を書いているのか分からない
さらに難しいのが、インダス文字によって記録された言語そのものが分からないことです。
有力な仮説の一つとして、現在の南インドなどに分布するドラヴィダ語族につながる古い言語だったのではないかという説があります。
一方で、これまでには別の言語との関連を想定したさまざまな解読説も提案されてきました。
しかし、
「インダス文字はこの言語を記録したものだ」と研究者の間で決着したわけではありません。
文字の読み方だけでなく、その背後にある言語まで分からないことが解読をさらに難しくしています。
本当に「文字」なのかという議論まである
さらに興味深いことに、インダス文字については、
「そもそも話し言葉を記録する完全な文字体系だったのか?」という議論まであります。
印章に刻まれた記号は、人物・職業・商品・組織などを示す識別記号だったのではないかという考え方もあります。
一方、記号の並び方や出現位置などを分析し、何らかの言語的な情報を記録していた可能性を研究する試みも続いています。
つまり、
「何と読むのか」
という段階以前に、
「これはどのような情報伝達システムだったのか」
という問題そのものが完全には解決していないのです。
これまでに数多くの「解読成功」が発表されている
インダス文字には、これまで何度も、
「ついに解読された」という説が登場しています。
ドラヴィダ語族との関連を想定したものをはじめ、さまざまな言語や読み方を当てはめた研究が発表されてきました。
近年ではコンピューターを利用して記号の出現頻度や並び方を分析する研究も行われています。
しかし、特定の説が研究者の間で広く受け入れられ、
「インダス文字の解読に成功した」と認められた状態には至っていません。
短い文字列だけを使う場合、複数の異なる言語や解読方法でも、それらしく意味を当てはめられてしまう危険があります。
そのため、新しい解読説が発表されたからといって、それだけで「インダス文字が読めるようになった」と判断することはできません。
解読されればインダス文明の歴史が大きく変わるかもしれない
もしインダス文字が完全に解読されたら、私たちは何を知ることができるのでしょうか。
印章が商取引に使われていたのであれば、商品名や商人、役職、都市名などが記録されている可能性があります。
宗教に関係するものなら、インダス文明の神々や信仰について新しい事実が分かるかもしれません。
さらに人名や地名、統治制度などが読み取れれば、これまで遺跡や出土品から推測するしかなかったインダス文明の社会が、一気に具体的な姿を見せる可能性もあります。
高度な都市を築きながら、その人々自身の「言葉」が読めないインダス文明。
目の前に文字が残されているにもかかわらず、その声だけが約4,000年の時を超えて届かない――。
インダス文字は、現在も世界を代表する未解読文字の一つなのです。
② 線文字A|線文字Bは解読されたのになぜ読めない?
次に紹介するのは、古代クレタ島のミノア文明が残した「線文字A(Linear A)」です。
線文字Aは、およそ紀元前1800年~紀元前1450年ごろに使用されていた文字体系で、主にクレタ島から粘土板や石器、土器などに記された資料が発見されています。
この文字の非常に興味深いところは、
「よく似た線文字Bは解読されているのに、線文字Aはいまだに完全には解読されていない」という点です。
見た目が似ているのなら、線文字Bの読み方をそのまま当てはめれば読めそうにも思えます。
しかし、問題はそれほど単純ではありません。

ミノア文明で使われていた謎の文字
線文字Aが使われたクレタ島では、青銅器時代に「ミノア文明」と呼ばれる高度な文明が発展しました。
クノッソスなどには巨大な宮殿が築かれ、地中海世界の各地と交易を行っていたと考えられています。
その社会では物資や経済活動を管理する必要があり、線文字Aも行政記録などに使用されていたとみられています。
実際に発見された粘土板には、文字だけでなく数字や物品を表していると考えられる記号なども残されています。
つまり、
「何らかの情報を体系的に記録していた」こと自体はかなり分かっているのです。
それにもかかわらず、文章そのものの意味は十分に理解できていません。
「線文字B」というよく似た文字が存在する
線文字Aを語るうえで欠かせないのが「線文字B」です。
線文字Bは線文字Aより後の時代に使用され、線文字Aから発展したと考えられている文字体系です。
1952年、イギリスの建築家で言語学にも取り組んでいたマイケル・ヴェントリスによって、線文字Bが古いギリシャ語を記録した文字であることが明らかになりました。
現在では、線文字Bはミケーネ・ギリシャ語を記録した文字として読むことができます。
線文字Aと線文字Bには、形の似た記号が数多く存在します。
そこで当然、
「線文字Bの音価を線文字Aにも当てはめれば読めるのでは?」という考えが生まれます。
実際、共通・類似する記号について、線文字Bを手掛かりとして推定される読み方が使われることがあります。
ところが、それだけでは文章の意味が分かりません。
読み方を推測できても「言葉の意味」が分からない
ここが線文字Aの非常に面白いところです。
例えば未知の文章に、
「KA-NA-TA」
のような音を当てられたとしても、その「KANATA」が何を意味する言葉なのか分からなければ、文章を理解したことにはなりません。
線文字Aでも似た問題が起きています。
線文字Bとの比較によって一部の記号について推定される音価はありますが、線文字Aが記録している言語そのものが判明していません。
研究上、この未知の言語は便宜的に「ミノア語」などと呼ばれることがあります。
しかし、
「どの言語系統に属していたのか」
「現在知られているどの言語と関係するのか」
について決定的な答えは出ていません。
つまり線文字Aでは、
文字の一部を発音できる可能性があっても、その言葉を理解できない
という不思議な状況が起きているのです。
線文字Aと線文字Bで同じ記号が同じ音とは限らない
さらに注意しなければならない問題があります。
線文字Aと線文字Bで形が似ている記号があったとしても、
必ず同じ音を表していたとは限りません。
文字体系が別の言語に取り入れられる過程で、記号の使われ方や音価が変化する可能性があるからです。
そのため、線文字Bの読み方を線文字Aへ機械的に当てはめるだけでは、確実な解読にはなりません。
それでも両者の関係は非常に重要で、線文字Bは線文字Aを研究するうえで大きな手掛かりになっています。
数字や物資管理については分かってきている
「未解読」と聞くと、
「何一つ分かっていない」
と思ってしまうかもしれません。
しかし、線文字Aについてはすべてが謎というわけではありません。
出土した場所や資料の形式、記号の配置などから、行政や物資管理に使われた文書が存在することが分かっています。
また、数字や数量を記録する仕組みについても研究が進んでいます。
分数を表したと考えられる記号についても、統計的・計算的な分析などを利用して数値を推定する研究が行われています。
つまり、
文章の言語は読めなくても、記録がどのような目的で作られたのかについては少しずつ理解が進んでいる
という状態なのです。
なぜ線文字Bは解読できたのに線文字Aは解読できない?
両者の大きな違いの一つが、記録されている言語です。
線文字Bの場合、それが古いギリシャ語であることが判明しました。
ギリシャ語は後世にも大量の資料が残されているため、既知の言語と比較しながら解読を検証できます。
一方、線文字Aが記録していると考えられる言語は、現在のところ正体が分かっていません。
さらに、利用できる文章量にも限界があります。
未知の言語を未知の文字体系から復元するには、比較できる資料が非常に重要です。
しかし線文字Aには、ロゼッタ・ストーンのような決定的な対訳資料も発見されていません。
「文字の形はかなり分かる。しかし、その先にある言語が見つからない」
ことが、線文字Aの大きな壁なのです。
AIによる解読研究も始まっている
近年では、コンピューターやAIを利用して線文字Aを分析する試みも行われています。
大量の記号の並び方を分析したり、他の古代言語との類似性を調べたりすることで、人間だけでは見つけにくいパターンを探そうという研究です。
AIが未知の言語との関連性を発見できれば、解読への新しい手掛かりになる可能性があります。
ただし、AIを使えば自動的に答えが出るわけではありません。
比較する言語が正しいのか、推定された音価が妥当なのか、限られた資料から偶然の一致を拾っていないかなど、最終的には考古学・言語学の証拠と照らし合わせて検証する必要があります。
2026年現在も、線文字Aは「解読済み」と認められた状態には至っていません。
もし解読されたらミノア文明の姿が変わる?
線文字Aが完全に読めるようになれば、ミノア文明について現在とはまったく違う景色が見えてくる可能性があります。
人名や地名、物資、交易、宗教、行政組織など、これまで遺跡や出土品から推測してきた社会の仕組みを、ミノア人自身が残した「言葉」から知ることができるかもしれません。
特に興味深いのは、
「ミノア人はいったい何語を話していたのか?」
という問題です。
線文字Bを残した後世のミケーネ人がギリシャ語を使用していたことは分かっています。
しかし、その前にクレタ島で繁栄したミノア人の言語は、現在も謎のままです。
線文字Aが解読される日は、単に一つの文字が読めるようになるだけではありません。
失われたミノア文明の「声」が、約3,500年の時を超えて再び聞こえる瞬間になるのかもしれません。
③ ロンゴロンゴ|イースター島に残された謎の文字
巨大なモアイ像で知られる、南太平洋のラパ・ヌイ島(イースター島)。
この絶海の孤島には、モアイとは別にもう一つ、世界的に有名な謎が残されています。
それが「ロンゴロンゴ(Rongorongo)」です。
ロンゴロンゴは、人間や鳥、魚、植物、道具などを思わせる不思議な記号が木製の板などにびっしりと刻まれた文字体系です。
その独特な見た目だけでも非常に印象的ですが、
そこに何が書かれているのかは、現在も完全には解読されていません。
さらに、その起源についても謎が残されています。
もしヨーロッパ人との接触以前からラパ・ヌイで独自に文字が発明されていたとすれば、人類の文字史を考えるうえでも非常に重要な存在となる可能性があります。

人間や動物のような記号が並んでいる
ロンゴロンゴの最大の特徴は、その独特な記号です。
木板を見ると、
・人間のような姿
・鳥や魚などの動物
・植物のような形
・身体の一部
・道具のようなもの
・幾何学的な形
などを思わせる記号が連続して刻まれています。
単純な線だけで構成された文字とは違い、一つ一つが小さな絵のようにも見えます。
しかも複数の記号が組み合わされたような複雑な形もあります。
そのため、初めて見た人なら、
「古代の絵文字なのでは?」
と思うかもしれません。
しかし、記号が長い列として規則的に配置されていることや、書き手による修正と考えられる痕跡なども研究されており、何らかの体系的な情報を記録していた可能性があります。
ただし、ロンゴロンゴが音声言語を完全に表記する「文字」だったことが疑いなく証明されたわけではなく、その性質自体にも研究上の議論が残っています。
木の板を180度回転させながら読んだ?
ロンゴロンゴには、さらに変わった特徴があります。
その読み方です。
多くのロンゴロンゴ資料では「逆牛耕式」と呼ばれる特殊な配置が確認されています。
一つの行を読み終えると、次の行の記号は上下が逆向きになっています。
そのため、
1行を読み終えるたびに木板を180度回転させ、次の行を読む
という読み方だったと考えられています。
現代の本なら、左から右へ読み終わった後、そのまま視線を次の行へ移します。
ロンゴロンゴの場合は、木板そのものをくるりと回転させるイメージです。
意味は分からなくても「どの順番で記号を追っていくのか」については、ある程度研究が進んでいるという面白い例です。
現存する資料があまりにも少ない
ロンゴロンゴ解読を難しくしている大きな理由の一つが、資料の少なさです。
現在知られている真正なロンゴロンゴ資料は非常に限られており、30点にも満たない木製資料しか残されていません。
しかも、それらは一か所にまとまっているわけではありません。
世界各地の博物館やコレクションに分散しています。
未知の文字を解読するには、できるだけ多くの文章を比較し、
「この記号はどこで使われるのか」
「どの記号と一緒に現れやすいのか」
「同じ文章が別の資料にも存在するのか」
といったパターンを調べる必要があります。
しかし、そもそもの資料が少なければ、分析できる情報にも限界があります。
読める人々が失われてしまった可能性
ロンゴロンゴが特に悲劇的なのは、単に古すぎて読み方が忘れられたとは限らない点です。
19世紀のラパ・ヌイは、外部との接触によって大きな社会的混乱を経験しました。
奴隷襲撃や疫病などによって人口が激減し、伝統文化の多くが失われていきます。
ロンゴロンゴの制作も19世紀後半には途絶えたと考えられています。
もしロンゴロンゴを読み書きできる人々が限られていたとすれば、その知識を持つ人々が亡くなることで、
文字そのものは残ったのに「読み方」だけが失われてしまった
可能性があります。
目の前に文章が存在しているのに、それを読める最後の人々がいなくなってしまった――。
ロンゴロンゴの謎には、そんな歴史的背景も関係しています。
何が書かれていたのか?
ロンゴロンゴの内容については、さまざまな説があります。
伝承では、
・系譜
・暦や月の周期
・農耕に関する知識
・宗教的な情報
・歌や詠唱
などが記録されていたとも伝えられています。
実際、一部の資料については月の満ち欠けや暦と関係するのではないかという研究もあります。
しかし、
「ロンゴロンゴ全体をこの方法で読める」という決定的な解読法は見つかっていません。
過去には解読成功を主張する説も複数登場しましたが、研究者の間で広く認められた完全な解読には至っていません。
そもそも、いつ作られた文字なのか?
ロンゴロンゴには、もう一つ非常に重要な謎があります。
それは、
「ヨーロッパ人がラパ・ヌイへ到達する前から存在した文字なのか?」という問題です。
ヨーロッパ人がラパ・ヌイへ到達したのは18世紀です。
もしロンゴロンゴがそれ以前から存在していたのであれば、外部の文字文化を参考にせず、ラパ・ヌイで独自に文字体系が誕生した可能性が出てきます。
これは人類の文字史にとって非常に大きな意味を持ちます。
そして2024年、この問題に関係する興味深い研究結果が発表されました。
15世紀の木材を使ったロンゴロンゴ板が発見された?
研究チームがローマに保存されている4点のロンゴロンゴ板を放射性炭素年代測定したところ、そのうち1点に使われていた木材について、
15世紀半ばにまでさかのぼる年代が示されました。
ヨーロッパ人がラパ・ヌイへ到達するより、はるかに古い時代です。
この結果は、
「ロンゴロンゴはヨーロッパ人との接触以前に生まれていたのではないか」
という可能性を考えるうえで非常に興味深い証拠となりました。
ただし、ここには重要な注意点があります。
放射性炭素年代測定で分かるのは、基本的に木材そのものの年代です。
その木に文字が刻まれた時期まで直接示しているわけではありません。
古い木材が後の時代に再利用された可能性なども考慮する必要があります。
そのため、
「ロンゴロンゴが15世紀には確実に存在したことが証明された」と断定することはできません。
それでも、ロンゴロンゴの起源を考えるうえで非常に重要な発見です。
世界でも珍しい「独自に発明された文字」なのか
人類の歴史上、文字が完全に独立して発明されたと考えられている地域は、それほど多くありません。
メソポタミア、エジプト、中国、メソアメリカなどが代表例として研究されています。
もしロンゴロンゴがヨーロッパ人との接触以前にラパ・ヌイで独自に発明されていたことが証明されれば、
人類史上でも数少ない「文字の独立発明」の一例
となる可能性があります。
太平洋に浮かぶ孤島で、人々が独自に「言葉を書き残す方法」を生み出していたとすれば、それだけでも非常に興味深い話です。
現代技術で解読できる可能性は?
ロンゴロンゴ研究では、現在も新しい技術が利用されています。
例えば高精度の3Dスキャンやフォトグラメトリを使い、木板表面の細かな刻線を記録する研究が行われています。
古い模写では見落とされていた記号や修正跡を正確に記録できれば、文字の構造や書き手の癖をより詳しく分析できます。
さらにデジタル化された資料を使えば、記号の出現頻度や繰り返しパターンをコンピューターで分析することも可能です。
しかし、どれほど解析技術が進歩しても、比較できる文章そのものが少ないという根本的な問題は残ります。
新しいロンゴロンゴ板や、内容を別の言語で説明した資料が発見されれば状況は一変するかもしれません。
モアイだけではないラパ・ヌイ最大級の謎
ラパ・ヌイと聞けば、多くの人が最初に思い浮かべるのはモアイ像でしょう。
しかし、木板に刻まれた小さな記号の列にも、モアイに負けないほど大きな謎が残されています。
誰が作ったのか。
いつ作られたのか。
何が書かれているのか。
そして、本当にラパ・ヌイで独自に生まれた文字なのか。
木板は世界各地の博物館に残されているのに、その文章を読んだ人々の声は失われてしまいました。
「読む順番は分かるのに、意味が分からない」――。
ロンゴロンゴは、人類が文字を生み出し、その知識を受け継ぐことの重要性まで感じさせる、世界でも特に興味深い未解読文字の一つです。
④ ファイストスの円盤|渦巻き状に刻まれた謎の記号
1908年、ギリシャ・クレタ島にある古代都市ファイストスの宮殿遺跡から、不思議な粘土製の円盤が発見されました。
それが「ファイストスの円盤(Phaistos Disc)」です。
直径約16cmの円盤の両面には、人間、鳥、魚、植物、道具などを思わせる記号が、外側から中心へ向かって渦巻き状に並んでいます。
しかし、そこに何が書かれているのかは現在も分かっていません。

記号を一つずつ「押して」作られている
ファイストスの円盤の大きな特徴が、文字の作り方です。
記号を一つずつ手書きしたのではなく、あらかじめ作られた印章のようなものを柔らかい粘土へ押し付けて作られたと考えられています。
同じ記号がほぼ同じ形で繰り返し登場するためです。
そのため、「世界最古の印刷物のようなもの」と表現されることもあります。
ただし、現代の活版印刷と同じ技術だったという意味ではありません。
重要なのは、複数の記号を繰り返し使用する仕組みが存在していたという点です。
45種類ほどの記号が登場する
円盤には、一般に45種類ほどの異なる記号が確認されています。
人間の頭部のようなもの、歩いている人物、鳥、魚、盾、船や植物を思わせるものなど、非常に個性的です。
それらが線によっていくつものグループに区切られています。
このため、一つのグループが単語のような役割を持っている可能性も考えられてきました。
しかし、
「一つの記号が一つの音を表すのか」
「音節を表すのか」
「単語や概念そのものを表しているのか」
という基本的な仕組みすら確定していません。
最大の問題は比較できる文章がほとんどないこと
ファイストスの円盤が解読できない最大の理由は、比較できる資料がほぼ存在しないことです。
①のインダス文字では多数の印章が、②の線文字Aでも複数の粘土板などが発見されています。
ところがファイストスの円盤の場合、同じ記号体系で書かれた長い別文書が大量に存在するわけではありません。
一つの短い文章だけから未知の文字体系を解読するのは、極めて困難です。
仮にある記号を「王」、別の記号を「神」と解釈して文章らしい意味を作れたとしても、それが正しいかを別の文章で検証できません。
そのため、もっともらしい解読説を作ることはできても、その説を証明することが非常に難しいのです。
線文字Aと関係している?
ファイストスの円盤が発見されたクレタ島では、先ほど紹介した線文字Aも使用されていました。
そのため、両者に何らかの関係があるのではないかと考えたくなります。
しかし、ファイストスの円盤に使われている記号は線文字Aとは大きく異なります。
同じ時代・地域の文字資料などと比較する研究は行われていますが、
「ファイストスの円盤は線文字Aをこの方法で書いたものだ」といった単純な関係が証明されているわけではありません。
そもそも円盤がクレタ島で作られたものなのか、別の地域から持ち込まれたものなのかについても議論があります。
何が書かれているという説がある?
内容については、これまで実にさまざまな説が提唱されてきました。
宗教的な祈りや賛歌、暦、物語、戦争に関する記録、ゲーム、王への献辞など、その解釈は大きく異なります。
中には、
「解読に成功した」と主張する研究者や愛好家もいます。
しかし、他の研究者が同じ方法を使って別の資料でも検証できなければ、解読法が正しいと証明することは困難です。
そのため現在も、学術的に広く合意された解読には至っていません。
たった一枚の円盤が残した巨大な謎
ファイストスの円盤には、確かに何らかの規則に従って記号が並べられているように見えます。
しかし、その規則を説明する「答え合わせ」がありません。
もし今後、同じ記号が刻まれた新しい粘土板や、既知の言語と併記された資料が発見されれば、100年以上続く謎が一気に解ける可能性もあります。
反対に、新しい資料が発見されなければ、永遠に正解を証明できない可能性もあります。
文字らしきものは完全な形で目の前にあるのに、それを比較する相手がいない。
ファイストスの円盤は、資料の少なさがどれほど文字解読を難しくするのかを象徴する未解読資料なのです。
⑤ ヴォイニッチ手稿|100年以上解読されていない謎の写本
世界で最も有名な未解読文書の一つが「ヴォイニッチ手稿」です。
現在はアメリカのイェール大学ベイネッキ貴重書・写本図書館に所蔵されており、謎の文字とともに、実在するのか分からない植物、天体図、裸の人物、不思議な装置のような挿絵が多数描かれています。
その奇妙な内容から、
「いったい誰が、何のために作った本なのか?」という謎が100年以上にわたって研究者や暗号愛好家を魅了してきました。

文字は規則的なのに意味が分からない
ヴォイニッチ手稿に書かれた文字は、単なる無秩序な記号には見えません。
同じ「単語」のような文字列が繰り返し登場し、出現する位置などにも一定のパターンが確認されています。
そのため、未知の言語を記録したもの、既知の言語を暗号化したもの、人工言語など、さまざまな説が提唱されてきました。
一方で、意味のない文章を巧妙に作った偽書ではないかという説もあります。
しかし、どの説も手稿全体を矛盾なく説明し、研究者の間で広く認められる決定的な解読には至っていません。
実は20世紀に作られた偽物ではない
「誰にも読めないのなら、近代になって作られた偽物なのでは?」と思うかもしれません。
しかし、手稿の羊皮紙を放射性炭素年代測定した結果、15世紀初頭のものと推定されています。
少なくとも、ヴォイニッチ手稿を1912年に入手し、その名の由来となった古書商ウィルフリッド・ヴォイニッチが一から作ったものではありません。
謎の文章が何を意味しているかは分からなくても、資料そのものが中世までさかのぼることは科学的な調査によって裏付けられています。
「解読成功」のニュースは何度も登場している
ヴォイニッチ手稿ではこれまで何度も、
「ついに解読された」という説が発表されてきました。
特定の言語で読めるという説や暗号方式を特定したという説など、その内容はさまざまです。
しかし、新しい説が発表されたことと、ヴォイニッチ手稿が学術的に解読されたことは同じではありません。
2026年現在も、一般に受け入れられた完全な解読には至っていません。
約600年前の誰かが残した文章は、現在も私たちの目の前に存在しています。
それなのに、一冊の本に何が書かれているのか分からない――。
ヴォイニッチ手稿は、現代にも残る「読めない本」の代表格といえるでしょう。
※ヴォイニッチ手稿については、別記事で「植物・天体・人体など各ページの内容」「作者候補」「暗号説」「偽書説」「これまでの解読説」まで詳しく紹介しています。
「ヴォイニッチ手稿をもっと詳しく楽しみたい人へ」
⑥ ローホンク写本|448ページを埋め尽くす正体不明の文字
ヴォイニッチ手稿と並んで「読めない本」として知られているのが、「ローホンク写本(Rohonc Codex)」です。
この写本は448ページにも及び、ほぼ全ページが正体不明の記号で埋め尽くされています。
さらに文章の間には、キリスト教を思わせる宗教的な場面や人物、建物などを描いた多数の挿絵も残されています。
これだけ大量の文章があるなら解読できそうにも思えます。
しかし、
「何語で書かれているのか」「そもそも普通の文字なのか、暗号なのか」という基本的な部分から謎が残されています。

ハンガリー科学アカデミーに残された謎の写本
ローホンク写本の名前は、かつてハンガリー西部にあったローホンクという町に由来します。
現在、この町はオーストリア領のレヒニッツ(Rechnitz)となっています。
写本は19世紀、ハンガリーの貴族グスターヴ・バッチャーニの蔵書に含まれていたことで知られるようになり、1838年にハンガリー科学アカデミーへ寄贈されました。
現在も同アカデミーの図書館に所蔵されています。
しかし、それ以前に、
「誰が書いたのか」
「どこで作られたのか」
「何のために作られたのか」
については、はっきりしていません。
紙に残された透かしなどから、使用された紙は16世紀に北イタリアで作られた可能性が指摘されています。
ただし、紙が作られた年代と、その紙に文字が書かれた年代が必ず同じとは限りません。
記号の種類が非常に多い
ローホンク写本を難解にしている理由の一つが、使用されている記号の多さです。
一般的なアルファベットであれば、基本となる文字数は数十種類程度です。
ところがローホンク写本では、はるかに多くの異なる記号が確認されています。
そのため、
「一つの記号=一つの音」という単純なアルファベット式の暗号ではない可能性があります。
一つの記号が単語や概念を表している可能性や、複数の記号を組み合わせたコード、速記法、人工言語など、さまざまな可能性が検討されてきました。
右から左へ読む可能性が高い
文章そのものは理解できなくても、研究によって少しずつ分かってきた特徴もあります。
ローホンク写本は、右から左へ読むように書かれている可能性が高いとされています。
ページ内の文字列の配置や余白などを分析すると、右側から書き始めて左側へ進んだと考えると自然だからです。
また、文章の区切りや数字らしい記号なども研究されています。
つまり、
「完全に何も分からない謎の落書き」というわけではありません。
文字の構造については、少しずつ研究が積み重ねられています。
キリスト教を思わせる挿絵が多数ある
ローホンク写本には、多数の挿絵が描かれています。
特に目立つのが宗教的な場面です。
十字架やキリスト教の聖書物語を連想させる図像が含まれており、文章もキリスト教に関係する内容なのではないかと考えられてきました。
もし挿絵と文章が対応しているのであれば、
絵の内容から周囲の文章を推測するという解読方法が使えそうです。
しかし、それだけで文字の意味を確定することはできません。
宗教画のように見えるからといって、その横の文章が必ずその場面を説明しているとは限らないからです。
「偽物ではないか」という説もあった
あまりにも正体が分からないため、ローホンク写本には偽書説もあります。
19世紀後半には、誰かが意図的に作った意味のない偽物ではないかと考える研究者もいました。
しかし、その後の研究では、単純な偽造品として片付けることにも疑問が示されています。
長大な文章全体に何らかの規則性がある可能性があり、
暗号、コード、速記法、人工言語などを使って実際の情報が記録されているのではないかという研究も続いています。
2018年には「コードを解読した」という研究も
そしてローホンク写本については、非常に興味深い進展もあります。
研究者のLevente Zoltán KirályとGábor Tokaiは2018年、暗号研究誌『Cryptologia』に「Cracking the code of the Rohonc Codex」という論文を発表しました。
彼らはローホンク写本について、
単純な換字暗号や未知のアルファベットではなく、単語や概念などを記号へ変換する複雑なコード体系として分析しています。
さらに文章の一部について、キリスト教に関係する内容として解釈・翻訳する試みも示しました。
そのためローホンク写本は、
「誰もまったく読めない資料」とだけ説明すると、現在の研究状況を正確に表しているとはいえません。
一方、この研究によって写本全体の読み方や言語、文法などが完全に確定し、誰でも同じ方法で全文を読める状態になったわけでもありません。
そのため現時点では、
解読に向けた重要な研究成果はあるものの、完全に決着した写本とは言いにくい
という扱いが適切でしょう。
ヴォイニッチ手稿とは違うタイプの謎
ヴォイニッチ手稿とローホンク写本は、どちらも大量の未知の文章と挿絵を持つことから比較されることがあります。
しかし、両者が同じ仕組みで書かれているわけではありません。
ローホンク写本の場合、単純な「未知の文字」ではなく、意図的に情報を隠すためのコード体系だった可能性が真剣に研究されています。
もしその説が正しければ、
「失われた文字を読む」
というより、
「数百年前の誰かが作った暗号システムを逆算する」ことに近い謎なのかもしれません。
448ページもの文章を書き残しながら、その読み方を伝える鍵は残さなかった作者。
ローホンク写本は、未解読文字と未解決暗号の境界に位置するような、非常に興味深い謎の文書なのです。
⑦ ドラベラ暗号|作曲家エルガーが残した87文字の暗号
ここからは、古代の未解読文字ではなく「誰かが意図的に読めないようにした暗号」を紹介します。
その代表的な例の一つが「ドラベラ暗号(Dorabella Cipher)」です。
この暗号を残したのは、イギリスを代表する作曲家エドワード・エルガー。
『威風堂々』などで知られる世界的な作曲家ですが、実は暗号にも強い関心を持っていました。

1897年に送られた謎のメッセージ
1897年7月、エルガー夫妻は友人だったペニー家を訪れました。
その後、エルガーの妻アリスから一家へ感謝の手紙が送られます。
その手紙には、エルガー本人が書いたとされる小さな紙片が同封されていました。
宛先となったのが、当時20代だったドーラ・ペニーです。
紙には普通の英語ではなく、
半円や渦巻きのような奇妙な記号が87個並べられていました。
これが後に「ドラベラ暗号」と呼ばれるようになります。
「Dorabella」は、エルガーがドーラにつけていた愛称に由来します。
3つの半円を組み合わせたような記号
ドラベラ暗号には、非常に特徴的な記号が使われています。
基本となる形は、一つ・二つ・三つの半円を組み合わせたような記号です。
さらに、それぞれの記号には向きの違いがあります。
一見すると単純な換字暗号にも見えます。
つまり、
「この記号=A」
「この記号=B」
というように、一つずつアルファベットへ置き換えれば文章が現れるのではないかと考えられるわけです。
しかし実際には、それほど簡単ではありません。
さまざまな研究者や暗号愛好家が解読を試みてきましたが、現在まで決定的な答えは確認されていません。
本文が短すぎることが大きな壁
ドラベラ暗号の解読を難しくしている理由の一つが、その短さです。
暗号文はわずか87文字。
長い暗号文なら、
「この記号が頻繁に出てくるから、英語のEではないか」
「この3文字の並びはTHEかもしれない」
といった頻度分析を行いやすくなります。
しかし87文字しかなければ、偶然の偏りも大きくなります。
さらにエルガーが単純な換字だけでなく、独自のルール、略語、音の置き換え、個人的な言葉遊びなどを加えていた場合、難易度は一気に上がります。
「解読成功」を主張する説は複数ある
ドラベラ暗号についても、これまで複数の解読案が発表されています。
中には自然な英文らしい文章を導き出した例もあります。
しかし問題は、
同じ暗号から異なる方法で、それぞれ別の「もっともらしい文章」を作れてしまうことです。
本当に正しい解読法なら、そのルールを一貫して適用でき、エルガーがその方式を使ったと考えられる証拠も必要になります。
それを決定的に証明できる「答え合わせ」が残されていないため、現在も広く合意された解読には至っていません。
エルガー本人だけが知っていたメッセージなのか
ドラベラ暗号には、国家機密や財宝の場所が隠されていたわけではないと考えられています。
友人であるドーラへ送られたことを考えれば、個人的な挨拶や冗談、親愛のメッセージだった可能性もあります。
しかし、内容が何であったとしても、その答えを知っていたエルガーは1934年に亡くなりました。
暗号を書いた本人がいなくなり、解読の鍵も残されていない。
わずか87個の記号は、100年以上経った現在も人々を悩ませ続けています。
古代文明の失われた文字とはまったく異なり、
「作者も時代も相手も分かっているのに、内容だけが分からない」
という点が、ドラベラ暗号の最大の面白さなのです。
⑧ クリプトス|CIA本部に設置された最後の未解決暗号
世界でも特に有名な現代暗号の一つが「クリプトス(Kryptos)」です。
クリプトスは古代文書ではありません。
1990年、アメリカ・バージニア州ラングレーにあるCIA(中央情報局)本部の敷地内に設置された暗号彫刻です。
作者はアメリカの芸術家ジム・サンボーン。
巨大な銅板には大量のアルファベットが切り抜かれており、その中には4つの暗号文が隠されています。
暗号はそれぞれ、
K1・K2・K3・K4と呼ばれています。

K1~K3はすでに解読されている
「CIAにある未解決暗号」と紹介されることの多いクリプトスですが、実はすべてが未解決なのではありません。
4つの暗号のうち、
K1・K2・K3はすでに解読されています。
CIAの職員や外部の暗号研究者によって解読され、その内容も明らかになっています。
一方、最後に残ったK4はわずか97文字。
文章量だけを見れば短い暗号ですが、この97文字が30年以上にわたって世界中の暗号研究者を悩ませてきました。
CIAも公式に、K4を非常に難しく作られた部分として紹介しています。
作者自身が解読のヒントを公開
作者のサンボーンは、長年にわたってK4のヒントを少しずつ公開してきました。
その中には、
「BERLIN」
「CLOCK」
「EAST」
「NORTHEAST」
など、K4を正しく解読した場合に現れることが確認された単語があります。
つまり97文字すべてが完全な暗闇というわけではありません。
正解となる文章の一部分は分かっているのです。
それでも、そこから暗号全体を生み出した規則や鍵を逆算することには成功していません。
2025年、K4の「答え」が偶然発見された
そして2025年、クリプトスの歴史を大きく変える出来事が起こりました。
研究者のジャレット・コベックとリチャード・バーンが、スミソニアン協会のアーカイブに保管されていたサンボーンの資料を調査。
その中からK4の平文を復元できる資料を発見しました。
作者のサンボーン本人も、発見された文章が正しいことを確認しています。
これだけ聞くと、
「ついにクリプトスが解読された!」と思うかもしれません。
しかし、ここには重要な違いがあります。
2人は暗号文を解析して答えを導き出したのではありません。
作者が制作時に残していた資料から、答えそのものを発見したのです。
そのためサンボーンも、
「発見されたのであって、暗号が解読されたわけではない」という趣旨の説明をしています。
平文は分かっても「どう暗号化したか」が分からない
通常、暗号の解読では、
暗号文
↓
暗号方式や鍵を特定
↓
元の文章を復元
という過程をたどります。
ところがK4では、元の文章に相当する平文が資料から先に発見されました。
それでも、
「97文字の暗号文から、どのような手順でその文章を導き出せるのか」という暗号方式・鍵の問題は公には解決していません。
しかも、発見されたK4の全文も一般には公開されていません。
そのため2026年現在のK4は、
「平文は非公開の資料から発見され、作者によって確認された。しかし暗号を解く方法は依然として公に解明されていない」という非常に特殊な状態になっています。
「答えは見つかったのに暗号は解けていない」
インダス文字や線文字Aでは、文章そのものの意味が分かりません。
一方、クリプトスK4では、正しい平文を知る人が存在します。
それなのに、暗号文からその答えへ到達する方法が分かっていない。
これは今回紹介する10個の中でもかなり特殊なケースです。
「答えを発見すること」と「暗号を解読すること」は同じではない。
クリプトスは、その違いを非常に分かりやすく示してくれる現代暗号なのです。
⑨ D’Agapeyeff暗号|作者自身も解き方を忘れた未解決暗号
未解決暗号の中でも、少し変わった理由で解読が難しくなってしまったのが「D’Agapeyeff(ダガペイエフ)暗号」です。
この暗号が登場したのは1939年。
Alexander D’Agapeyeffが出版した暗号の入門書『Codes and Ciphers』の初版、その最後に読者への挑戦問題として掲載されました。
つまり、古代遺跡から偶然発見されたものでも、秘密組織が残したものでもありません。
もともとは暗号を学ぶ読者のために作られた問題だったのです。
ところが、その問題が80年以上経った現在まで解けていません。

数字だけで作られた長い暗号
D’Agapeyeff暗号は、
「75628 28591 62916……」というように、数字を5桁ずつ区切った形で掲載されています。
全文では395桁の数字が並びます。
数字の出現パターンには偏りがあるため、完全なランダム列ではなく、何らかの暗号規則によって作られた可能性が考えられています。
ポリュビオス方陣のように複数の数字を組み合わせて文字を表現し、さらに文字の順番を入れ替える転置などを組み合わせたのではないかという分析もあります。
しかし、決定的な解読法は見つかっていません。
作者本人が解き方を忘れてしまった?
この暗号を特に有名にしているのが、
作者自身が暗号化の方法を忘れてしまったと伝えられていることです。
D’Agapeyeff暗号は『Codes and Ciphers』の後の版から削除されました。
そしてD’Agapeyeff本人も、後にどのような方法で暗号を作ったのか再現できなくなっていたとされています。
もし暗号を作った本人が、
「どんな鍵を使ったのか」
「どの順番で処理したのか」
を忘れてしまったのであれば、答え合わせをする人物まで失われたことになります。
読者向けの問題として作ったはずの暗号が、作者自身にも解けない暗号になってしまったのです。
そもそも暗号文にミスがある可能性も
さらに厄介なのが、暗号文そのものに誤りが含まれている可能性です。
暗号を作る途中で数字を一つ書き間違えたり、印刷時に数字が抜けたりすれば、正しい方法を推測できても途中から文章が崩れてしまうことがあります。
D’Agapeyeffの著書に掲載された別の暗号例から校正上の問題を指摘した研究もあり、
「暗号そのものに何らかのミスがあるため解けないのではないか」という可能性も検討されています。
これが事実なら、現在の解読者は暗号方式だけでなく、
「どこかに間違った数字が入っているのではないか」という問題まで考えなければなりません。
正解らしい文章を作るだけでは解読にならない
これまでD’Agapeyeff暗号についても、さまざまな解読案が提案されてきました。
しかし暗号解読で重要なのは、単に意味の通る英文を作ることではありません。
同じルールを最初から最後まで適用し、なぜその数字がその文字になるのかを説明できなければ、正しい解読法とは確認できません。
現在まで、広く受け入れられた平文と鍵は確認されていません。
もしかすると非常に巧妙な暗号なのかもしれません。
あるいは、単純な暗号だったものの、作者のミスによって正常に解けない「壊れたパズル」になっているのかもしれません。
暗号を作った本人が、その鍵を失ってしまった。
D’Agapeyeff暗号は、暗号そのものだけでなく「正解を確認する方法まで失われると、解読がどれほど難しくなるのか」を示す珍しい未解決暗号なのです。
⑩ タマム・シュッド事件の文字列|暗号なのかすら分からない謎のメモ
最後に紹介するのは、オーストラリア最大級のミステリーとして知られる「タマム・シュッド事件」に残された謎の文字列です。
1948年12月1日、南オーストラリア州アデレード近郊のソマートン・ビーチで、一人の男性の遺体が発見されました。
長年「ソマートン・マン」と呼ばれてきたこの男性の事件では、数々の不可解な手掛かりが発見されています。
その中でも特に有名なのが、
意味不明なアルファベットの文字列です。

「Tamám Shud」と書かれた小さな紙片
男性の衣服からは、小さく丸められた紙片が発見されました。
そこには、
「Tamám Shud」という言葉が印刷されていました。
これはペルシャ語で「終わった」「完了した」といった意味を持つ表現です。
調査の結果、この紙片はペルシャの詩人ウマル・ハイヤームの詩集『ルバイヤート』の最終ページから切り取られたものだと判明しました。
その後、問題のページが切り取られた『ルバイヤート』そのものも発見されます。
そして本の裏表紙を詳しく調べると、そこには薄く書かれた謎のアルファベット列が残されていました。
意味不明のアルファベットが数行並んでいた
文字列は、
「WRGOABABD」
「WTBIMPANETP」
などと読める複数行のアルファベットで構成されています。
一部の文字は判読が難しく、消されたように見える行や記号も存在するため、正確な転写そのものにも多少の不確実性があります。
事件の状況もあり、
「これは秘密のメッセージを暗号化したものではないか?」と考えられるようになりました。
当時の暗号専門家も分析しましたが、文章が短すぎるため、明確な結論を出すことはできませんでした。
実は「暗号ではない」可能性も高い
この文字列については、その後コンピューターを使った分析も行われています。
アデレード大学の研究グループは、文字の出現頻度やさまざまな暗号方式との適合性などを調査しました。
その結果、単純な換字暗号や一般的な暗号方式ではうまく説明できないことが分かっています。
一方で注目されたのが、
「文章に含まれる単語の頭文字だけを書いたものではないか」という説です。
例えば、
「I Love To Read Books」
という文章なら、
「ILTRB」
とだけ記録するようなものです。
本人だけが元の文章を知っていれば、ちょっとしたメモや備忘録として使用できます。
研究では、ソマートン・マンの文字列についても、通常の暗号文より英語の単語の頭文字を並べた文字列に近い可能性が示されています。
そのため現在では、
そもそも「解くべき暗号」が存在しているのかというところから議論が続いています。
『ルバイヤート』を暗号鍵にした?
謎の文字列が『ルバイヤート』の裏表紙から発見されたため、
「詩集そのものが暗号を解く鍵なのではないか」
という説も当然考えられました。
例えば、本の文章を利用するブック暗号や、ワンタイムパッドのような方式です。
しかし研究では、『ルバイヤート』をそのまま利用するいくつかの暗号方式について検証が行われたものの、意味のある文章は得られていません。
つまり、
「本が見つかった=その本が暗号鍵だった」とは確認されていないのです。
男性の身元問題には大きな進展があった
この事件については、近年大きな進展もありました。
長年分からなかったソマートン・マンの身元について、アデレード大学のデレク・アボット教授らがDNAと遺伝系譜を利用して調査。
2022年、男性はメルボルン出身の電気技師「カール・ウェッブ(Carl Webb)」だったとする研究結果が発表されました。
ただし、身元に関する研究が進んだことと、謎の文字列が解読されたことは別問題です。
男性の名前が判明したとしても、
「なぜこの文字列を書いたのか」
という謎はそのまま残ります。
さらに2026年時点でも、南オーストラリア警察による調査結果を検視官へ提出する手続きが進められており、事件全体について公的な検討が続いています。
競馬のメモだった可能性まである?
研究を続けてきたアボット教授は、この文字列について非常に日常的な可能性も指摘しています。
カール・ウェッブが競馬を好んでいたとみられることなどから、
競走馬の名前などを頭文字だけで記録した個人的なメモだった可能性も考えられるというものです。
もしそうなら、スパイ映画のような秘密暗号ではありません。
本人にしか分からない単なる備忘録だったことになります。
しかし、その場合でも元になった単語や文章が残っていなければ、頭文字だけから内容を完全に復元するのは極めて困難です。
身元が分かっても「文字の意味」は残った
タマム・シュッド事件は、未解決暗号を考えるうえで非常に興味深い例です。
発見当初は、
「謎の死」
「正体不明の男性」
「謎の詩集」
「暗号らしき文字」
という複数の謎が重なっていました。
そのうち男性の身元については、DNA技術によって大きく解明へ近づきました。
しかし、文字列については、
暗号なのか。
文章の頭文字なのか。
単なる個人的なメモなのか。
現在も決定的な意味は分かっていません。
最新科学によって一つの謎が解けても、別の謎まで自動的に解けるわけではない。
タマム・シュッド事件の文字列は、「未解決暗号」と呼ばれてきたものの中には、そもそも暗号かどうかさえ確定できないものがあることを示す代表的な例なのです。
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なぜ現代でも未解読の文字や暗号が残っているのか?
ここまで紹介してきた文字や暗号を見ると、
「これだけ科学やコンピューターが発達しているのに、なぜまだ解読できないの?」
と思うかもしれません。
しかし、未解読文字や未解決暗号には、コンピューターの性能だけでは解決できない問題があります。
代表的な理由を整理してみましょう。
① 比較できる文章が少なすぎる
インダス文字やファイストスの円盤などでは、解読に利用できる文章量そのものが不足しています。
未知の文字を解読するには、
「どの記号が頻繁に使われるのか」
「どの記号同士が並びやすいのか」
「文章の最初や最後に現れやすい記号は何か」
といった規則性を探す必要があります。
資料が短ければ、偶然なのか言語的な規則なのかを判断することさえ難しくなります。
② 何語が書かれているのか分からない
線文字Aやインダス文字では、文字だけでなく、その文字によって記録された言語も特定されていません。
仮に記号の発音をある程度推測できても、その音が未知の言語なら意味を理解できないことがあります。
「文字を読むこと」と「言葉を理解すること」は別の問題なのです。
③ 対訳資料が存在しない
未知の文字を解読するうえで非常に強力なのが、同じ文章を複数の言語で記録した資料です。
古代エジプトのヒエログリフ解読で有名なロゼッタ・ストーンが、その代表例です。
しかし多くの未解読文字には、このような「答え合わせ」に使える資料がありません。
既知の言語との対訳資料が一つ発見されるだけで、長年止まっていた解読研究が一気に進む可能性があります。
④ 暗号を作った本人と「鍵」が失われている
ドラベラ暗号やD’Agapeyeff暗号では、文字そのものは読むことができます。
問題は、元の文章をどのような規則で変換したのか分からないことです。
暗号方式だけでなく、秘密のキーワードや数字などの「鍵」が必要な場合、その情報が失われると解読は一気に難しくなります。
特に短い暗号文では、複数の方法で意味の通る文章を作れてしまうこともあり、
「解けたように見えること」と「本当に正解であること」を区別しなければなりません。
⑤ そもそも「文字」や「暗号」ではない可能性がある
最も厄介なのが、この問題です。
ロンゴロンゴやインダス文字では、それが音声言語を完全に記録する文字体系だったのかという議論があります。
タマム・シュッド事件の文字列も、暗号ではなく単語の頭文字を並べただけの個人的なメモだった可能性があります。
存在しない暗号方式を何十年研究しても、当然「暗号の答え」は見つかりません。
そのため研究者は、
「どう読むのか?」
だけでなく、
「そもそもこれは何なのか?」
というところから検証する必要があります。
解読には「新しい発見」が必要なこともある
未解読文字の謎を解く最後の鍵は、意外にも最新のスーパーコンピューターではなく、地中から発見される一枚の粘土板かもしれません。
未知の文字と既知の言語が並んだ対訳資料。
同じ記号が使われた長い文章。
文字の使用方法を説明する記録。
暗号作者が残した鍵。
こうした新しい資料が一つ発見されるだけで、それまで解けなかった謎が急速に解明される可能性があります。
未解読文字や未解決暗号の研究は、
「頭の良い人ならいつかパズルを解ける」という単純なものではありません。
解読するために必要な情報そのものが、まだ発見されていない場合もあるのです。
かつては未解読だった文字は、どうやって解読された?
現在では普通に読める古代文字の中にも、かつては長い間「未解読」だったものがあります。
その代表例が、古代エジプトのヒエログリフと線文字Bです。
これらがどのように解読されたのかを見ると、現在残されている未解読文字に何が足りないのかも見えてきます。

ロゼッタ・ストーンがヒエログリフ解読の突破口に
古代エジプトの神殿や墓には大量のヒエログリフが残されていましたが、その読み方は長い間失われていました。
大きな転機となったのが、1799年に発見された「ロゼッタ・ストーン」です。
そこには同じ内容の法令が、
・ヒエログリフ
・デモティック
・古代ギリシャ語
という3種類の文字で記されていました。
古代ギリシャ語は読むことができたため、その文章と未知のヒエログリフを比較できるようになったのです。
その後、ジャン=フランソワ・シャンポリオンらの研究によって解読が大きく進み、1822年にはヒエログリフの解読における重要な成果が発表されました。
これは、
「既知の言語と未知の文字を比較できる資料がどれほど重要なのか」を示す代表的な例です。
もしインダス文字にも同じような対訳資料が発見されれば、研究が一気に進む可能性があります。
線文字Bは「何語なのか」を突き止めて解読された
もう一つの有名な成功例が、先ほど線文字Aの項目でも登場した「線文字B」です。
線文字Bもかつては読むことができませんでした。
研究者アリス・コーバーは、膨大な文字列を整理し、語尾などに一定の規則が存在することを分析。
その研究を受け継ぐ形でマイケル・ヴェントリスが解読を進め、1952年、線文字Bが古いギリシャ語を記録した文字であることを突き止めました。
さらに古典学者ジョン・チャドウィックとの研究によって解読が検証され、線文字Bで記録されたミケーネ・ギリシャ語の理解が進んでいきます。
ここで重要なのは、
最初から「これはギリシャ語だ」と分かっていたわけではないという点です。
文字の出現パターン、地名と考えられる単語、文法的な規則などを一つずつ比較し、仮説が他の粘土板にも当てはまるかを検証していきました。
未解読文字も「決定的な手掛かり」で状況が変わる可能性がある
ヒエログリフも線文字Bも、現在では解読済みの古代文字です。
しかし、それは最初から簡単に読めたからではありません。
大量の資料を比較し、仮説を立て、別の文章でも成立するかを検証するという地道な研究の積み重ねによって解読されました。
そして時には、ロゼッタ・ストーンのような決定的な資料が状況を大きく変えます。
現在のインダス文字や線文字Aも、
「永遠に解読できない文字」と決まったわけではありません。
新しい遺跡の発掘や資料の発見によって、何千年間も失われていた言葉が突然読めるようになる可能性は残されているのです。
「暗号や古代文字の解読をもっと知りたい人へ」
AIなら未解読文字や暗号を解読できる?
近年、AIの急速な発達によって、
「人間が何千年も読めなかった文字も、AIなら解読できるのでは?」
と期待する人も多いでしょう。
実際、コンピューターや機械学習を古代文字の研究に利用する試みは進んでいます。
AIが得意とするのは、大量のデータから人間が気付きにくいパターンを探すことです。
例えば、
・特定の記号が現れやすい位置
・一緒に使われやすい記号
・繰り返される文字列
・文章の区切りと思われるパターン
・既知の言語との統計的な類似性
などを高速で分析できます。
人間が何年もかけて調べるような組み合わせを、コンピューターによって効率的に検証できることは大きな強みです。
AIによって古代文字研究が進む可能性
実際に、機械学習を利用して未解読文字や古代言語を分析する研究も行われています。
今回紹介した線文字Aでも、深層学習を利用して既知の古代言語との関係を調べる研究が進められています。
また、完全な未解読文字だけでなく、欠損した古代文書の文章を推定したり、碑文が作られた年代や場所を予測したりする研究にもAIが利用されています。
大量の資料をデジタル化してAIで比較できるようになれば、これまで見落とされていた規則が発見される可能性があります。
それでもAIだけでは解決できない理由
一方、
「高性能なAIに未解読文字を入力すれば、そのうち正解を出してくれる」というほど単純ではありません。
最大の問題は、元になるデータが不足していることです。
ファイストスの円盤のように比較資料そのものがほとんどなければ、AIにも十分な分析材料がありません。
インダス文字でも、長文や対訳資料が存在しないという問題は、コンピューターの性能を上げるだけでは解決できません。
さらにAIが、
「この記号列はこの言語に似ている」
という結果を出したとしても、それだけで解読成功とはいえません。
偶然似たパターンが現れた可能性を排除し、考古学的な年代や地域、文法、他の文章にも同じ読み方が成立するかなどを検証する必要があります。
AIと考古学者・言語学者の協力が重要
今後期待されるのは、AIが研究者に取って代わることではなく、
AIによって候補を絞り、人間の研究者が歴史・考古学・言語学の証拠から検証するという使い方でしょう。
さらに3Dスキャンや高解像度撮影などを組み合わせれば、肉眼では見えにくくなった文字を発見できる可能性もあります。
数千年前の未知の文字を、最新のAIが分析する。
一見すると正反対の世界のようですが、今後の技術革新によって、現在この記事で「未解読」と紹介している文字の中から、解読済みへ変わるものが現れるかもしれません。
ただし最後の鍵になるのは、AIそのものではなく、
新しい資料の発見と、それを正しく検証できる証拠なのかもしれません。
世界の未解決暗号・未解読文字に関するよくある質問
最後に、未解決暗号や未解読文字についてよくある疑問をまとめます。

Q1. 世界で最も有名な未解読文字は?
一つに決めることはできませんが、代表的なものとして「インダス文字」「線文字A」「ロンゴロンゴ」などがあります。
特にインダス文字は、高度な都市文明を築いたインダス文明で使用されていたにもかかわらず、現在も広く受け入れられた解読には至っていません。
また、未解読の「文書」という意味では、ヴォイニッチ手稿も世界的に有名です。
Q2. 未解読文字と未解決暗号は何が違う?
大きな違いは、何が分からないのかです。
「未解読文字」は、文字体系そのものや、その文字が表している言語を十分に読むことができないものです。
一方の「未解決暗号」は、使用されている文字自体は読めても、一定の規則によって変換された文章を元に戻せないものを指します。
例えば線文字Aは未解読文字、ドラベラ暗号やクリプトスK4は未解決暗号として考えると分かりやすいでしょう。
ただし、ローホンク写本のように「文字なのかコードなのか」という分類自体に議論があるものも存在します。
Q3. ヴォイニッチ手稿はもう解読された?
いいえ。
ヴォイニッチ手稿についてはこれまで何度も「解読した」という説が発表されていますが、2026年現在も、学術的に広く受け入れられた完全な解読には至っていません。
イェール大学ベイネッキ貴重書・写本図書館でも、現在も正体不明の文字で書かれた未解読の写本として扱われています。
そのため、インターネットなどで「ヴォイニッチ手稿がついに解読された」という情報を見かけた場合は、それが一つの仮説なのか、研究者によって十分に検証された成果なのかを分けて考える必要があります。
Q4. AIを使えば未解読文字を解読できる?
AIは未解読文字研究の強力な道具になる可能性がありますが、AIだけですべてを解決できるわけではありません。
機械学習を使えば、記号の出現頻度や並び方、他の言語との類似性などを大量のデータから分析できます。
しかし、
「比較できる文章がほとんどない」
「何語なのか分からない」
「対訳資料が存在しない」
といった問題は、AIの計算能力だけでは解決できません。
AIが出した候補についても、考古学・歴史学・言語学などの証拠を使って検証する必要があります。
Q5. 今後、未解読文字が突然解読される可能性はある?
十分にあります。
歴史上、ヒエログリフや線文字Bも、かつては読むことのできない文字でした。
特に大きな転機となる可能性があるのが、新しい資料の発見です。
例えば、
「未知の文字と既知の言語が併記された石碑」
「これまでよりはるかに長い文章」
「同じ文字が使われた別の文書」
などが発見されれば、現在の研究状況が大きく変わる可能性があります。
考古学的な発見だけでなく、AI、画像解析、3Dスキャンなどの技術も進歩しています。
この記事で紹介した10個の中から、将来「未解読」という言葉が外れるものが出てきても不思議ではありません。
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まとめ|世界には今も読めない文字や暗号が残されている
今回は、世界に残る未解決暗号・未解読文字を10個紹介しました。
数千年前の文明が残したインダス文字や線文字A、ラパ・ヌイ島のロンゴロンゴ、たった一枚の円盤に謎の記号が刻まれたファイストスの円盤。
さらにヴォイニッチ手稿やローホンク写本のような謎の文書から、ドラベラ暗号、クリプトス、D’Agapeyeff暗号、タマム・シュッド事件の文字列といった比較的新しい謎まで、その正体はさまざまです。
そして「解読できない理由」も一つではありません。
資料が少なすぎるもの。
何語で書かれているのか分からないもの。
対訳資料が存在しないもの。
暗号の鍵が失われてしまったもの。
さらには、そもそも文字や暗号なのかどうかさえ分からないものもあります。
一方、現在では読めるヒエログリフや線文字Bも、かつては未解読文字でした。
ロゼッタ・ストーンの発見や長年にわたる研究によって、失われていた文字は再び読めるようになったのです。
現在も考古学的な発掘は続き、AIや画像解析、3Dスキャンなど、研究に利用できる技術も進歩しています。
今後、新しい粘土板や石碑、対訳資料などが一つ発見されただけで、何千年も続いてきた謎が突然解ける可能性もあります。
文字は残っているのに、その意味だけが失われている。
そこには、かつて確かに存在した誰かの言葉や記録が眠っています。
この記事で紹介した10個の謎のうち、次に「解読済み」へ変わるのはどれなのでしょうか。
その答えが明らかになる日を待ちながら、世界に残された「まだ読めない言葉」に思いを巡らせてみるのも面白いかもしれません。



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