世界には、長い年月をかけて研究されながらも、いまだ正体が完全には明らかになっていないものが存在します。
その中でも「世界で最も謎めいた本」の一つとして知られているのが、**ヴォイニッチ手稿(Voynich Manuscript)**です。
ページを開くと、そこに並んでいるのは見慣れない文字のような記号。
さらに、正体の分からない植物、星や天体を思わせる円形の図、不思議な管のようなものにつながった人物など、奇妙な挿絵が次々と現れます。
一見すると、ファンタジー作品のために作られた架空の魔導書のようにも見えるかもしれません。
しかし、ヴォイニッチ手稿は創作上のアイテムではありません。
実際に存在する歴史的な写本です。
暗号研究者や言語学者をはじめ、多くの研究者がその内容を理解しようとしてきました。
それでも、そこに書かれている文字が何語なのか、誰が書いたのか、何を伝えようとしているのかについて、現在まで広く受け入れられた完全な解読には至っていません。
医学や薬草について記した本なのか。
何らかの情報を隠した暗号文書なのか。
未知の言語が使われているのか。
それとも、そもそも文章には意味がないのでしょうか。
さまざまな仮説が唱えられてきましたが、その正体をめぐる議論は今も続いています。
この記事では、ヴォイニッチ手稿とは何なのか、その奇妙な内容や歴史、作者についての説、これまでの解読研究、そして現在も残されている謎について紹介します。
600年近い時を経てもなお人々を魅了し続ける、謎の写本の世界を見ていきましょう。
世界にはヴォイニッチ手稿以外にも、私たちの常識では想像しにくい不思議なものが数多く存在します。
自然界の不思議に興味がある方は、「実在する不思議な自然現象15選」や「実在する不思議な物質15選」もあわせてご覧ください。
「実在する不思議な自然現象15選」
→ 実在する不思議な自然現象15選!世界で起こる神秘的・奇妙な現象を紹介
「実在する不思議な物質15選」
→実在する不思議な物質15選!まるでSFのような驚異の物質・新素材を紹介
ヴォイニッチ手稿とは?
ヴォイニッチ手稿(Voynich Manuscript)は、正体不明の文字と奇妙な挿絵で構成された未解読の写本です。
現在はアメリカのイェール大学にある「バイネキ稀覯本・写本図書館」が所蔵しており、正式な資料番号は**「Beinecke MS 408」**です。
手稿には見たことのない文字がびっしりと書き込まれ、その周囲には植物、星、円形の天体図のようなもの、人間、薬草のようなものなどが描かれています。
ところが、肝心の文章が何を意味しているのかは現在も分かっていません。
ヴォイニッチ手稿の基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名称 | ヴォイニッチ手稿(Voynich Manuscript) |
| 資料番号 | Beinecke MS 408 |
| 作者 | 不明 |
| 使用言語 | 不明 |
| 文字 | 未特定の文字体系 |
| 内容 | 植物・天文・占星術・入浴・宇宙論・薬学などを思わせる図と文章 |
| ページ数 | 約240ページ |
| 大きさ | 約23.5cm×16.2cm |
| 素材 | 羊皮紙(ヴェラム) |
| 現在の所蔵先 | イェール大学バイネキ稀覯本・写本図書館 |
| 解読状況 | 広く認められた完全な解読には至っていない |
いつ作られたものなのか?
ヴォイニッチ手稿は、一見しただけでは制作年代さえ分からない謎の本でした。
しかし、現代では科学的な調査も行われています。
羊皮紙などの分析から、中世からルネサンス期にかけてのヨーロッパで作られた写本と考えられており、少なくとも単純に現代で作られた偽物とは考えにくい資料です。
つまり、ヴォイニッチ手稿の最大の不思議は「最近誰かが謎の文字を書いて作った本」ではなく、何百年も前に実際に制作された写本なのに、そこに何が書かれているのか分からないという点にあります。
なぜ「ヴォイニッチ手稿」と呼ばれている?
「ヴォイニッチ」という名前は、手稿を書いた人物の名前ではありません。
名前の由来となったのは、ポーランド出身の古書商**ウィルフリッド・M・ヴォイニッチ(Wilfrid M. Voynich)**です。
1912年、ヴォイニッチはイタリア・ローマ近郊のフラスカーティにあったイエズス会関連施設からこの写本を購入しました。
その後、彼がこの謎の写本を世に広く知らしめたことから、「ヴォイニッチ手稿」と呼ばれるようになりました。
しかし、この時点で作られた本ではありません。
手稿はヴォイニッチの手に渡るよりもはるか以前から存在しており、過去の所有者についてもいくつかの記録が残されています。
現在はどこにある?
現在、ヴォイニッチ手稿はアメリカ・イェール大学のバイネキ稀覯本・写本図書館に所蔵されています。
貴重で壊れやすい歴史資料であるため、誰でも自由に原本を手に取れるわけではありません。
しかし、ヴォイニッチ手稿には非常に大きな特徴があります。
手稿全体の高解像度画像がデジタル公開されているのです。
そのため、私たちもインターネットを通じて実際のページを確認できます。
「本当にこんな文字が書かれているのか?」
「奇妙な植物はどんな姿なのか?」
「何がそれほど謎なのか?」
そう思った人は、自分の目で原本の画像を確認することもできます。
そして実際にページを見てみると、ヴォイニッチ手稿がなぜ100年以上にわたって研究者や暗号愛好家を魅了してきたのか、その理由が少し分かるかもしれません。

ヴォイニッチ手稿は何がそんなに不思議なのか?
ヴォイニッチ手稿が「世界で最も謎めいた本」の一つとして語られる最大の理由は、単に文章が読めないからだけではありません。
ページをめくっていくと、正体不明の文字、奇妙な植物、天体や星座を思わせる図、液体の中にいるような人物、用途の分からない容器や管などが次々と登場します。
しかも、それらが何を意味しているのか説明する文章そのものが解読されていません。
そのため、挿絵を手掛かりに「何について書かれた本なのか」を推測するしかない状態が続いています。
① 誰も読めない正体不明の文字
最も大きな謎が、本文に使われている文字です。
一見すると通常の文章のように見えます。
文字らしき記号が一定の方向に並び、単語のようなまとまりには空白があり、同じような文字列が繰り返し登場します。
そのため、完全に無秩序な記号を書き並べただけのものには見えません。
しかし、既知の言語や文字体系と単純に対応させても、その意味を読み取ることができません。
「未知の言語なのか?」
「既存の言語を暗号化したものなのか?」
「人工的に作られた文字なのか?」
さまざまな可能性が研究されてきましたが、現在も広く認められた解読には至っていません。
② 正体の分からない植物
ヴォイニッチ手稿を象徴するものの一つが、数多く描かれた植物です。
大きな葉、複雑な根、色鮮やかな花などが描かれており、中世の薬草図鑑を思わせます。
ところが問題は、描かれている植物の多くを現実の植物と確実に一致させることが難しいことです。
実在する植物に似ているものもありますが、葉はある植物、根は別の植物というように、複数の特徴を組み合わせたように見えるものもあります。

単に当時の絵が写実的ではなかったのか。
薬効などを分かりやすくするため意図的に特徴を強調したのか。
複数の植物を組み合わせた図なのか。
それとも、別の何かを植物として表現しているのでしょうか。
文章が読めないため、植物の名前すら確認できないことが謎をさらに深めています。
③ 星座や天体を思わせる謎の図
手稿には、太陽や月、星、円形の図なども多数登場します。
特に目を引くのが、円の周囲に星や人物が配置されたページです。
黄道十二宮を思わせる図も存在することから、天文学や占星術に関係した内容ではないかと考えられています。
中世ヨーロッパでは医学と占星術が結び付けられることも珍しくなかったため、植物や人体らしき図と天体図が同じ写本に収録されていること自体は、必ずしも異常ではありません。
しかし、説明文を読むことができない以上、実際に何を示しているのかは確定できません。
④ 液体の中にいるような謎の女性たち
ヴォイニッチ手稿の中でも、特に奇妙な印象を与えるのが多数の人物が描かれたページです。
裸の女性のように見える人物たちが、緑色の液体を満たした浴槽のような場所に入っています。
さらに、その周囲には管や容器のような構造が複雑につながっています。
まるで巨大な装置の内部に人間が入っているようにも見えるため、現代人が見るとSF的な印象を受けるかもしれません。
しかし、研究上は入浴や治療などに関連する**「balneological(浴療・入浴に関する)」図**として分類されています。
中世ヨーロッパには入浴療法や温泉療法なども存在したため、医学・健康に関する内容だった可能性も考えられます。
とはいえ、具体的に何をしている場面なのかは分かっていません。
⑤ 巨大な円や地図のような図
さらに奇妙なのが、折り畳まれた大きなページに描かれている複雑な円形図です。
複数の円が配置され、その間を道や管のようなものがつないでいます。
都市のように見える部分や、星、雲、炎のようにも見える模様まで描かれています。
宇宙を表しているのか。
地図なのか。
宗教的な世界観なのか。
天文学的な図なのか。
その正体は確定していません。
ヴォイニッチ手稿では、このような図は一般に「宇宙論(cosmological)」に関連するセクションとして分類されています。
⑥ 薬の調合を思わせるページ
手稿の後半には、植物の根や葉の一部分とともに、壺や薬瓶のような容器が描かれています。
そのため、薬草や薬の調合に関係するページではないかと考えられています。
もしヴォイニッチ手稿が医学・薬草学に関する本だったとすれば、
「植物を紹介する」
↓
「人体や入浴療法について説明する」
↓
「薬草を加工・調合する」
という構成だった可能性も想像できます。
ただし、これも挿絵から推測したものにすぎません。
⑦ 挿絵のない「レシピ」のような文章
最後の方には、それまでのような大きな挿絵がほとんどなく、短い文章が連続するページがあります。
それぞれの文章には、星や花のような記号が付けられています。
見た目が項目を並べたリストに近いため、研究上は便宜的に**「レシピ(recipes)」セクション**などと呼ばれています。
ただし、ここでいう「レシピ」は料理の作り方という意味に限定されません。
薬の処方や調合法、何らかの手順などを記録している可能性もあります。
そもそも文章が読めないため、本当にレシピなのかどうかも分かっていません。
絵を見ると内容が分かりそうなのに、結局分からない
ヴォイニッチ手稿の面白さはここにあります。
植物図鑑のように見える。
医学書のようにも見える。
占星術書にも見える。
薬草の調合法をまとめた本にも見える。
ところが、どれも決定的な答えにはなりません。
「もう少しで意味が分かりそうなのに、最後の一歩が分からない」
この状態が何百年も続いていることこそ、ヴォイニッチ手稿が現在まで人々を魅了している大きな理由なのかもしれません。
ヴォイニッチ手稿は誰が何のために作ったのか?
ヴォイニッチ手稿には、植物、天体、人体、薬草などを思わせる挿絵が大量に描かれています。
しかし、肝心の文章が読めないため、「誰が書いたのか」
そして、「何のために作られたのか」という基本的なことさえ、現在も確定していません。
これまでさまざまな説が唱えられてきました。
ここでは代表的な仮説を見ていきます。
医学・薬草学のために作られた説
まず考えられるのが、医学や薬草学に関係する実用書だったという説です。
ヴォイニッチ手稿には大量の植物が描かれています。

さらに、薬瓶のような容器、植物の根や葉、入浴しているように見える人物なども登場します。
これらを組み合わせると、
- 薬草の種類や特徴
- 薬の調合法
- 入浴療法
- 女性の健康
- 病気や治療
などについてまとめた医学書だった可能性が考えられます。
中世ヨーロッパには薬草や医学について記した写本が数多く存在していたため、本の形式そのものが当時として完全に異質だったわけではありません。
ただし、文章が解読されていない以上、本当に医学書だったと断定することはできません。
暗号で書かれた秘密文書説
ヴォイニッチ手稿について昔から考えられてきたのが、何らかの暗号が使われているという説です。
もし普通の文章を特殊な方法で暗号化しているのであれば、見たことのない文字が並んでいることにも説明がつきます。
実際、20世紀には暗号の専門家たちも解読に挑戦しました。
しかし、通常の換字式暗号のように、
「この記号はA」
「この文字列はこの単語」
と単純に置き換える方法では、説得力のある解読には至っていません。
もし暗号だとすれば、かなり複雑な仕組みが使われている可能性があります。
一方で、「これほど大量の文章すべてを複雑な暗号で記録する必要があったのか」という疑問も残ります。
未知の言語を記録した説
そもそも暗号ではなく、現在では知られていない言語をそのまま記録したものではないかという考え方もあります。
人類の歴史では、かつて使われていたものの現在では失われてしまった言語も存在します。
もしヴォイニッチ手稿がそのような言語を独自の文字で記録したものなら、既知の言語との対応関係を見つけられないのも不思議ではありません。
ただし、この説にも大きな問題があります。
比較できる同じ文字体系の資料がほとんど見つかっていないことです。
未知の言語を解読する場合、同じ文章を別の言語でも記した資料や、固有名詞、既知の文字との対応関係などが重要な手掛かりになります。
ヴォイニッチ手稿には、その「ロゼッタ・ストーン」のような決定的な手掛かりがありません。
人工言語だった説
さらに、作者自身が作った人工的な言語や文字体系だった可能性も考えられています。
現代でいう人工言語のようなものを、特定の人物や集団が使用していたという考え方です。
もし作者だけが理解できる独自の言語だった場合、他に対応資料が存在しなければ解読は極めて困難になります。
暗号と人工言語の中間のような仕組みだった可能性も否定できません。
意味のない文章を並べた「偽書」説
ここまでとは正反対の説もあります。
「そもそも文章には意味がないのではないか」
という説です。
つまり、謎めいた文字と奇妙な絵を大量に描き、
「非常に貴重な秘密の本」
に見せかけて高値で売るために作られた偽書だったのではないか、という考え方です。
当時、錬金術や占星術、秘術などを記した珍しい書物には大きな価値が付く可能性がありました。
読めない文字で書かれた謎の本なら、それだけで特別な知識が記されているように見えたかもしれません。
しかし、この説にも疑問があります。
ヴォイニッチ手稿は約240ページにも及ぶ大規模な写本です。
大量の文章だけでなく、植物や天体などの挿絵まで作り込まれています。
単なる偽物を作るために、なぜこれほどの労力を費やしたのでしょうか。
さらに、文章には一定の統計的な特徴が見られることも知られており、完全に無作為な記号の羅列として片付けることも簡単ではありません。
そのため、「意味のない偽書」という可能性も決着していません。
知識を秘密にするための本だった?
医学、薬草、占星術などの知識を、限られた人だけが理解できる形で記録したという可能性もあります。
例えば、
独自の文字+略語+暗号+専門用語
のような複数の仕組みが組み合わされていたとすれば、現代人が単純な暗号として解析しても読めない可能性があります。
作者にとっては普通に読める文章だったものが、文化や知識の継承が途絶えたことで「誰にも読めない文章」になったという可能性も考えられるでしょう。
どの説が最も有力なのか?
現時点では、
「ヴォイニッチ手稿の正体はこれだ」と学術的に決着した説はありません。
挿絵だけを見ると、薬草・医学・占星術などをまとめた実用的な写本だった可能性は十分考えられます。
しかし、それだけでは正体不明の文字を説明できません。
逆に暗号説なら文字の謎は説明できても、なぜ約240ページもの巨大な暗号文書を作ったのかという疑問が残ります。
そして偽書説にも、これほど手の込んだ写本を制作した理由という問題があります。
どの説にも「なるほど」と思える部分がある一方で、決定的な証拠がない。
その答えの出なさこそが、ヴォイニッチ手稿最大の魅力なのかもしれません。
ヴォイニッチ手稿の作者は誰?
ヴォイニッチ手稿の正体を考えるうえで、もう一つ避けて通れない謎があります。
「いったい誰がこの本を書いたのか?」
という問題です。

これほど大量の文章と複雑な挿絵を残したにもかかわらず、作者の名前は現在も分かっていません。
過去には有名な学者や錬金術師など、さまざまな人物の名前がヴォイニッチ手稿と結び付けられてきました。
しかし、その中には現在では可能性が低いと考えられている説もあります。
ロジャー・ベーコンが作者だった?
ヴォイニッチ手稿の作者として古くから名前が挙げられてきた人物の一人が、13世紀イングランドの学者**ロジャー・ベーコン(Roger Bacon)**です。
ベーコンは哲学、自然科学、数学、光学など幅広い分野を研究した人物として知られています。
ヴォイニッチ手稿の過去をたどると、神聖ローマ皇帝ルドルフ2世がこの写本を所有していた時期があります。
そしてルドルフ2世は、この本をロジャー・ベーコンの作品だと考えていたと伝えられています。
そのため長い間、「ヴォイニッチ手稿=ロジャー・ベーコンが残した秘密の書物」という説が注目されてきました。
しかし、現在ではこの説をそのまま受け入れることは困難です。
羊皮紙に対して行われた放射性炭素年代測定では15世紀初頭に由来するという結果が出ており、13世紀に生きたロジャー・ベーコンとは年代が合わないためです。
つまり、少なくとも現在分かっている科学的証拠から考えると、ロジャー・ベーコン本人がヴォイニッチ手稿を制作した可能性は極めて低いと考えられます。
神聖ローマ皇帝ルドルフ2世との関係
ヴォイニッチ手稿の歴史を語るうえで重要なのが、神聖ローマ皇帝**ルドルフ2世(Rudolf II)**です。
ルドルフ2世は芸術や科学だけでなく、占星術や錬金術などにも強い関心を持っていました。
その宮廷には天文学者、占星術師、錬金術師など多くの知識人が集まっていました。
そのような人物がヴォイニッチ手稿を所有していたというだけでも、この本のミステリアスなイメージを強く感じさせます。
後世の記録によると、ルドルフ2世はこの写本を600ドゥカートで購入したとされています。
かなりの金額を支払って手に入れたとすれば、当時すでに「非常に珍しい価値のある本」と考えられていた可能性があります。
ただし、ルドルフ2世は作者ではなく、現在確認されている初期の所有者として重要な人物です。
ジョン・ディーが関係していた?
次に登場するのが、16世紀イングランドの学者**ジョン・ディー(John Dee)**です。
ジョン・ディーは数学、天文学、占星術など幅広い分野に精通し、エリザベス1世とも関係を持った知識人でした。
さらに錬金術や神秘思想にも関心を持っていたため、ヴォイニッチ手稿の雰囲気とも非常に相性の良い人物です。
かつては、「ジョン・ディーがヴォイニッチ手稿を所有し、ルドルフ2世へ売ったのではないか」という説も唱えられてきました。
ディーがボヘミアに滞在し、ルドルフ2世の時代と接点を持っていたことも、この説を魅力的にしています。
しかし、現在のイェール大学はジョン・ディーが所有していたという説には研究上かなりの疑問があるとしています。
したがって、「ジョン・ディーがヴォイニッチ手稿をルドルフ2世へ売った」と事実として書くことはできません。
あくまで過去に唱えられてきた仮説の一つです。
エドワード・ケリーが作ったという説も
ジョン・ディーとともに語られることが多いのが、**エドワード・ケリー(Edward Kelley)**です。
ケリーはディーと活動した人物で、霊的存在との交信を行ったと主張したことなどでも知られています。
そのため、「ディーとケリーが謎の本を作り、ルドルフ2世に高値で売ったのではないか」という偽書説と結び付けられることがあります。
もしこれが事実なら、意味不明な文字や奇妙な挿絵も「秘密の知識が記された本」と思わせるための仕掛けだったという説明ができます。
しかし、これも決定的な証拠が存在するわけではありません。
ヴォイニッチ手稿の制作年代や伝来を考えるうえでも、ディーやケリーを作者と断定することはできません。
実際の作者は歴史に名前を残していない人物?
有名な人物ばかりに注目すると、もっと単純な可能性を忘れてしまいます。
つまり、
ヴォイニッチ手稿を作ったのは、現在では名前すら分からない人物だったという可能性です。
中世・ルネサンス期に作られたすべての写本について作者の名前が分かっているわけではありません。
薬草や医学、占星術などに詳しい人物や、複数の専門家が協力して制作した可能性も考えられます。
文章を書いた人物と挿絵を描いた人物が同じだったとも限りません。
現代では非常に有名なヴォイニッチ手稿も、制作当時には特定の地域や集団のためだけに作られた実用書だった可能性さえあります。
ヴォイニッチ手稿の伝来をたどる
作者は分かりませんが、ヴォイニッチ手稿が誰の手を渡ってきたのかについては、ある程度記録が残されています。
大まかな流れを見ると、
作者不明
↓
神聖ローマ皇帝ルドルフ2世
↓
ヤコブス・ホルチツキー・デ・テペネツ
↓
ゲオルク・バレシュ
↓
ヨハネス・マルクス・マルチ
↓
アタナシウス・キルヒャー
↓
長い空白期間
↓
ウィルフリッド・ヴォイニッチ
↓
その後の所有者
↓
イェール大学バイネキ稀覯本・写本図書館
という歴史をたどってきました。
特に重要なのが、1666年にヨハネス・マルクス・マルチがイエズス会の学者アタナシウス・キルヒャーへ送った手紙です。
この手紙は現在も手稿とともに残されています。
つまりヴォイニッチ手稿は、20世紀になって突然現れた「謎の本」ではありません。
少なくとも数百年前から、「何が書いてあるのか分からない奇妙な本」として人々の間を渡ってきたのです。
作者の名前は消えてしまった。
しかし、本そのものは残った。
そして現代になっても、その文章を読むことができない。
この長い歴史こそが、ヴォイニッチ手稿を単なる都市伝説ではなく、実在する歴史的ミステリーとして特別な存在にしています。
ヴォイニッチ手稿は解読された?現在も未解読なのか
ヴォイニッチ手稿について調べていると、
「ついに解読された」
「AIがヴォイニッチ手稿の謎を解いた」といった情報を目にすることがあります。
これだけを見ると、「もうヴォイニッチ手稿の謎は解決しているのでは?」と思うかもしれません。
しかし、結論からいうと、ヴォイニッチ手稿には現在も広く認められた完全な解読は存在していません。
これまで何度も解読説が発表されてきましたが、そのたびに研究者から問題点が指摘され、決定的な解読として定着するには至っていないのです。
なぜ「解読成功」が何度も発表されるのか?
ヴォイニッチ手稿には約240ページもの文章があります。
そのため、本当に解読方法を発見したのであれば、その方法を使って文章のさまざまな部分を一貫して読むことができるはずです。
ところが、過去の解読説には、
特定の単語だけ意味が合う
- 一部のページしか説明できない
- 読み方のルールが途中で変わる
- 解読者の判断によって文字の読み方を変えられる
- 同じ方法を第三者が再現できない
といった問題が指摘されることがあります。
数個の文字や単語に意味を当てはめられたとしても、それだけでは約240ページの文章全体を解読した証拠にはなりません。
重要なのは、同じ規則を使って手稿全体を一貫して説明できるかどうかです。
暗号の専門家たちも解読に挑戦してきた
ヴォイニッチ手稿の解読には、単なる暗号愛好家だけでなく、本格的な暗号研究に携わった人物たちも挑戦してきました。
特に有名なのが、アメリカの暗号研究者ウィリアム・F・フリードマンです。
フリードマンは暗号解読史における重要人物の一人で、第二次世界大戦期を含めアメリカの暗号研究に大きく貢献しました。
彼を中心とした研究グループもヴォイニッチ手稿を調査しましたが、決定的な解読には至りませんでした。
高度な暗号の専門家たちが研究しても簡単には読めなかったことが、ヴォイニッチ手稿の名声をさらに高めることになります。
「自然言語らしい特徴」は存在する?
ヴォイニッチ手稿の文章を統計的に分析すると、完全にランダムな文字列とは異なる特徴が見つかることがあります。
例えば、特定の文字列が頻繁に登場したり、単語のようなまとまりに一定のパターンが存在したりします。
こうした特徴から、「何らかの意味を持った言語なのではないか」と考える研究者もいます。
一方で、人間が一定の規則に従って意味のない文字列を生成した場合でも、言語らしい統計的特徴が生まれる可能性があります。
そのため、「言語らしい統計パターンがある=意味のある文章である」とまでは断定できません。
ここもヴォイニッチ手稿研究の難しいところです。
AIでヴォイニッチ手稿は解読された?
近年では、AIや機械学習を利用した解析も行われています。
コンピューターなら大量の文字列を高速で比較できるため、
- 文字の出現頻度
- 単語の繰り返し
- 文字同士の関係
- 既知の言語との類似性
などを人間より大規模に分析できます。
そのため、「AIなら600年間解けなかったヴォイニッチ手稿を解読できるのではないか」という期待もあります。
実際にコンピューターを利用して特定の言語との関連を提案した研究もあります。
しかし、AIや機械学習を使ったというだけで、その結果が正しいことにはなりません。
分析の前提となる「これは暗号である」「この言語から変換された」といった仮定が間違っていれば、コンピューターが高度な計算を行っても正しい答えにはたどり着けません。
現在のところ、AIによってヴォイニッチ手稿全体が解読され、その内容が学術的に広く受け入れられたという状況にはなっていません。
「古いトルコ語」「ヘブライ語」などの解読説も
これまでヴォイニッチ手稿については、さまざまな言語との関連が提案されてきました。
「この文字は特定の言語を表している」
「特殊な略記法を使えば読むことができる」
といった説が登場するたび、大きな注目を集めてきました。
しかし、ヴォイニッチ手稿全体を同じ規則で読み、第三者が検証できる形で意味の通る文章を復元するという段階には達していません。
そのため、新しい「解読成功」のニュースを見た場合には、
誰が発表したのか
査読や専門家による検証を受けているのか
手稿の一部分だけではなく全体に適用できるのか
別の研究者が同じ方法を再現できるのか
を見ることが重要です。
もし本当に解読されたら何が書かれている?
これは非常に興味深い疑問ですが、現時点では答えることができません。
挿絵から推測すると、
植物や薬草についての知識。
天文学や占星術。
入浴や健康に関する情報。
薬の調合法。
何らかの処方や手順。
こうした内容が記されている可能性があります。
しかし、文章を読めない以上、
「ヴォイニッチ手稿には○○について書かれている」
と断定することはできません。
実際に解読されれば、現在植物だと思われている図がまったく別の意味を持っていたと判明する可能性さえあります。
現在も「未解読」と考えるのが適切
ヴォイニッチ手稿には、これまで数多くの解読説が発表されてきました。
暗号研究者。
言語学者。
歴史研究者。
コンピューター科学者。
そして現代ではAIまで、その謎に挑んでいます。
それでも、誰もが納得できる答えには到達していません。
したがって現在は、「ヴォイニッチ手稿は解読された」というより、「さまざまな解読説が提案されているものの、広く認められた完全解読には至っていない」と理解するのが適切です。
600年近く前に作られた一冊の写本。
そこに並んでいる文字を、現代のコンピューターを使っても確実には読むことができない。
この事実こそが、ヴォイニッチ手稿が今なお世界中の研究者やミステリーファンを惹きつけている最大の理由の一つなのでしょう。
宇宙人や異世界の本?ヴォイニッチ手稿をめぐる奇妙な説
ヴォイニッチ手稿には、現在も意味の分からない文字や、正体を特定することが難しい植物、奇妙な人物、複雑な円形図などが描かれています。
そのあまりにも不可解な内容から、研究上の仮説とは別に、さまざまな奇説や都市伝説も生まれてきました。
中には、
「宇宙人が残した本なのでは?」
「異世界について記録した本なのでは?」
といったSFのような説まであります。
もちろん、こうした説を裏付ける確かな証拠が見つかっているわけではありません。
ここでは、ヴォイニッチ手稿をめぐって語られる代表的な奇説を見てみましょう。
宇宙人が残した本という説
ヴォイニッチ手稿の奇妙な文字や植物を見て、
「地球上のものではないのではないか」
と想像する人もいます。
特に正体不明の植物や、宇宙を表しているようにも見える円形図は、現代のSF作品に登場する「異星文明の記録」のような雰囲気があります。
そこから生まれたのが、宇宙人や地球外文明に関係する文書ではないかという説です。
もし未知の文明が独自の文字で知識を記録したものなら、誰にも読めないことにも説明がつくように思えます。
しかし、現時点でヴォイニッチ手稿と地球外生命を結び付ける科学的・歴史的証拠は確認されていません。
羊皮紙についても中世ヨーロッパの年代と整合する結果が得られています。
したがって宇宙人説は、研究上の有力説というより、ヴォイニッチ手稿の奇妙な外見から生まれた想像の一つとして楽しむべきでしょう。
異世界の植物図鑑という説
ヴォイニッチ手稿には大量の植物が描かれています。
ところが、その多くを現実の植物と確実に一致させることができません。
そこで生まれたのが、「この世界には存在しない植物を記録しているのではないか」という説です。
さらに発展して、
「異世界を訪れた人物が現地の植物を記録した」
「別世界から持ち込まれた植物図鑑だった」
といった話まで語られることがあります。
ファンタジーとして考えれば非常に魅力的です。
しかし、植物を特定できないからといって、直ちに架空の植物であることを意味するわけではありません。
中世の植物画は現代の植物図鑑のような精密な写生とは限らず、重要な特徴を強調したり、写本を複製する過程で形が変化したりすることもありました。
ヴォイニッチ手稿の植物も、実在する植物を独特な方法で描いた可能性があります。
失われた文明の知識を記録した説
もう一つ想像をかき立てるのが、歴史から消えてしまった文明や文化の知識を記録した本ではないかという説です。
もしヴォイニッチ手稿に使われている文字が、現在知られていない文化の文字だったとすれば、解読できないことにも説明がつきます。
そこには、
医学。
薬草。
天文学。
占星術。
人体。
宇宙観。
など、その文化独自の知識が記録されているのかもしれません。
ただし、現在までヴォイニッチ手稿と「未知の高度文明」を直接結び付ける考古学的証拠が発見されているわけではありません。
未知の言語や失われた文化の可能性を検討することと、「失われた超文明の本」と断定することは別の話です。
錬金術師が残した秘密の書という説
ヴォイニッチ手稿の雰囲気と非常に相性がいいのが、錬金術や秘術に関係する本だったという説です。
中世から近世にかけてのヨーロッパでは、錬金術、占星術、医学、薬学、自然哲学などが現代ほど明確に分離していませんでした。
植物。
星。
薬品を思わせる容器。
人体。
謎の記号。
これらが一冊の本に収められているため、錬金術師の秘密の研究ノートを想像したくなるのも無理はありません。
さらに、後に手稿を所有したとされるルドルフ2世の宮廷には錬金術や占星術に関心を持つ人物が集まっていました。
こうした歴史的背景も「錬金術の本」というイメージを強めています。
ただし、本文を解読できていない以上、ヴォイニッチ手稿が錬金術書だったと断定することはできません。
秘密結社だけが読める暗号文書だった?
独自の文字が大量に使われていることから、
「特定の集団だけが理解できる秘密文書だった」
と考える説もあります。
例えば、ある学術集団や宗教集団、秘密結社などが知識を外部へ漏らさないため、独自の文字や暗号を使っていたという考え方です。
もし読み方を口頭で伝えていたのであれば、その集団が消滅した瞬間に解読方法も失われてしまいます。
理屈としては考えられるシナリオです。
しかし、ヴォイニッチ手稿を使用していた秘密結社が存在したことを示す具体的な証拠は確認されていません。
女性のための医学書だったという説
宇宙人や異世界ほど派手ではありませんが、興味深い説として女性の健康や生殖に関する医学書だったという考え方があります。
手稿には裸の女性のように見える人物が多数登場します。
さらに液体、浴槽、管のような構造、植物、薬品を思わせる容器なども描かれています。
そのため、
妊娠や出産。
婦人科的な治療。
入浴療法。
薬草を利用した健康管理。
などについて記した本ではないかと考えることもできます。
これは挿絵の内容から医学的な用途を推測する仮説の一つですが、本文が読めない以上、やはり確定することはできません。
「異世界から来た本」と考えたくなる理由
ヴォイニッチ手稿の画像を見ると、宇宙人説や異世界説が生まれる理由も分かります。
知らない文字。
見たことのない植物。
奇妙な人体図。
謎の円形図。
そして誰にも読めない文章。
現代のファンタジー作品なら「異世界から発見された魔導書」と説明されても違和感がないほどです。
しかし、ヴォイニッチ手稿の本当の面白さは、超常的な説明を加えなくても十分に成立します。
約600年前の羊皮紙に、現在も意味を確定できない大量の文章が実際に残されている。
それだけですでに非常に大きな謎なのです。
宇宙人や異世界、失われた文明といった説は想像を楽しむには魅力的ですが、現在確認されている証拠とは分けて考える必要があります。
そして、科学的・歴史的な研究を積み重ねてもなお答えが出ていないからこそ、ヴォイニッチ手稿は単なる都市伝説以上の魅力を持ち続けているのでしょう。
ヴォイニッチ手稿は偽物?意味のない文章という可能性
ヴォイニッチ手稿については、
「そもそも意味のない文章を並べただけの偽物なのではないか?」
という説も長年議論されてきました。
ここで重要なのは、「写本そのものが古い」ことと「書かれている文章に意味がある」ことは別の問題だという点です。
羊皮紙は中世のものと考えられている
ヴォイニッチ手稿に使われている羊皮紙には、放射性炭素年代測定が行われています。
その結果、羊皮紙は1404年から1438年ごろに由来する可能性が高いことが示されました。
そのため、「20世紀になってヴォイニッチ本人が作った」といった近代の偽造品である可能性は非常に低いと考えられます。
ただし、この年代測定が示しているのは、あくまで羊皮紙となった動物が生きていた年代です。
「文章が1404~1438年に書かれた」と直接測定したわけではありません。
古い羊皮紙を後から利用することも理論上は可能です。
それでも、インクや顔料などを含む材料調査では、明らかに近代的な材料を使って作られたという決定的な証拠は確認されていません。
現在では、ヴォイニッチ手稿を中世からルネサンス期に由来する歴史的な写本として扱うことが一般的です。
「本物の古い本」でも内容が本物とは限らない
ここで新たな疑問が生まれます。
「中世に作られた偽書だった可能性は?」という問題です。
例えば15世紀の人物が、意味のない文字と奇妙な挿絵を使って、
「誰にも読めない秘密の知識が記された貴重な本」を作ったとします。
その場合、現代の年代測定を行えば当然「中世の写本」という結果になります。
つまり、
古い=文章に意味がある
とは限らないのです。
高値で売るために作られた?

偽書説でよく考えられる目的の一つが金銭です。
後世の記録によれば、神聖ローマ皇帝ルドルフ2世はヴォイニッチ手稿を600ドゥカートで購入したとされています。
もし作者が、
「古代の賢者が残した秘密の書」
「錬金術の究極の知識が記された本」
のように見せかければ、珍しい書物を収集する富裕層に高値で売れたかもしれません。
この考え方なら、なぜ誰にも読めない文字を使ったのかについて一応の説明はできます。
しかし、本当に詐欺目的だったことを証明する資料はありません。
意味のない文章を240ページも作れるのか?
偽書説には、もう一つ大きな問題があります。
ヴォイニッチ手稿は数ページだけの簡単な偽物ではありません。
約240ページにわたって大量の文字が書かれ、多数の挿絵まで描かれています。
さらに文字列には一定の繰り返しや規則性が見られます。
完全なでたらめを何百ページも書き続けるより、何らかの規則を使って文章を生成したと考えた方が自然に思える部分もあります。
一方、人間が一定のルールに従って「意味はないが言語のように見える文章」を大量に作ることが不可能だと証明されているわけでもありません。
つまり、
規則性がある=意味のある言語
とも断定できないのです。
「偽物か本物か」の二択ではない
ヴォイニッチ手稿について考えるとき、「本物か偽物か」という二択だけで考えると分かりにくくなります。
例えば、
① 実際の言語で書かれた実用書
② 既存の言語を暗号化した文書
③ 独自の人工言語で書かれた本
④ 意味のある情報を特殊な方法で記録した本
⑤ 一定の規則で生成された意味のない文章
⑥ 高値で売ることなどを目的に作られた偽書
など、さまざまな可能性があります。
そして現在も、そのどれなのかを決定できる証拠が不足しています。
ヴォイニッチ手稿そのものが歴史的な写本であることと、そこに書かれた文章が意味のある情報なのかという問題は分けて考える必要があります。
「本は本物。しかし文章の正体は分からない」
これが、現在のヴォイニッチ手稿を理解するうえで重要なポイントの一つです。
なぜヴォイニッチ手稿は600年近く経っても解読できないのか?
ヴォイニッチ手稿には、これまで暗号研究者や言語学者など多くの人々が挑んできました。
それでも、なぜ現在まで解読できていないのでしょうか。
その理由は単純に「暗号が難しいから」だけではありません。
① 何語なのか分からない
最大の問題は、文章に使われている言語そのものが分からないことです。
通常の暗号であれば「英語を暗号化したもの」「ラテン語を暗号化したもの」といった前提が大きな手掛かりになります。
しかしヴォイニッチ手稿では、その前提から分かりません。
未知の言語なのか、既存の言語なのか、人工言語なのかさえ確定していないのです。
② 暗号なのかどうかも分からない
さらに厄介なのが、そもそも暗号なのかも分からないことです。
暗号なら元の文章を復元する方法を探せばいいでしょう。
しかし独自の言語だった場合、暗号解読とはまったく違う方法が必要になります。
反対に、意味のない文字列だったなら、どれだけ解析しても「正解」は見つかりません。
つまり研究者は、何を解こうとしているのかという出発点から確定できない状態なのです。
③ 比較できる文章が見つかっていない
未知の文字を解読するとき、非常に重要なのが比較資料です。
有名なロゼッタ・ストーンでは、同じ内容が複数の文字で記されていたことが古代エジプト文字の解読につながりました。
しかしヴォイニッチ手稿には、同じ文章を既知の言語で書いた資料が確認されていません。
同じ文字体系を使った別の文書も見つかっていないため、比較する材料が極端に少ないのです。
④ 固有名詞を特定できない
未知の文章を読む手掛かりとして、人名や地名などの固有名詞も重要です。
例えば地図の横に既知の都市名が書かれていれば、そこから文字の対応関係を推測できるかもしれません。
しかしヴォイニッチ手稿では、挿絵が何を示しているのか自体が曖昧です。
植物の名前も、星の名前も、人物の名前も確定できません。
そのため解読を始めるための「足掛かり」がなかなか見つからないのです。
⑤ 作者に聞くことができない
そして当然ながら、作者が誰なのかも分かっていません。
文字の読み方や制作目的を記した別の資料が発見されれば、研究が一気に進む可能性があります。
しかし現在まで、そのような決定的資料は見つかっていません。
作者も不明。
言語も不明。
文字も不明。
内容も不明。
比較資料もない。
ヴォイニッチ手稿は、解読するために必要な「最初の鍵」そのものが失われているのです。
だからこそ、現代のコンピューターやAIを利用できる時代になっても、約600年前の一冊の写本が大きな謎として残り続けています。
ヴォイニッチ手稿は誰でも見られる?実物をオンラインで見る方法
ここまで読んで、「実際のヴォイニッチ手稿を自分でも見てみたい」と思った人もいるのではないでしょうか。
ヴォイニッチ手稿の原本は、現在アメリカのイェール大学バイネキ稀覯本・写本図書館に「Beinecke MS 408」として所蔵されています。
貴重な歴史資料のため、原本を誰でも自由に手に取って読むことはできません。
しかし、ヴォイニッチ手稿はデジタル化されたページ画像がオンラインで公開されています。
そのため日本からでも、
- 正体不明の文字
- 奇妙な植物
- 星座や天体のような図
- 液体の中にいる人物
- 薬瓶のような容器
- 複雑な円形図
などを実際の手稿画像で確認できます。
画像を見ると、「本当にこんなものが約600年前から残っているのか」と驚くかもしれません。
特に植物や円形図などは細かな部分まで描き込まれているため、自分なりに「これは何を表しているのだろう?」と考えながら眺めるのもヴォイニッチ手稿の楽しみ方の一つです。
インターネット上には加工された画像や、ヴォイニッチ手稿をモチーフにした創作物も存在します。
本物を確認したい場合は、イェール大学が公開している「Voynich Manuscript(Beinecke MS 408)」のデジタル資料を見るのが確実です。
研究者でなくても、世界最大級の未解読文書を自分の目で確かめることができます。
ヴォイニッチ手稿の実物画像を見てみよう
ヴォイニッチ手稿は、現在所蔵しているイェール大学のバイネキ稀覯本・写本図書館によって、高解像度のデジタル画像が公開されています。
興味がある方は、実際のページを見ながら「この植物は何だろう?」「この文字にはどんな意味があるのだろう?」と自分なりに考えてみるのも面白いでしょう。
▶ イェール大学「The Beinecke Cipher (Voynich) Manuscript」
世界中の研究者を悩ませてきた謎の手稿を、私たちも実際に自分の目で確認することができます。
ヴォイニッチ手稿に関するよくある質問
最後に、ヴォイニッチ手稿についてよく疑問に思われるポイントをまとめます。
ヴォイニッチ手稿は本当に誰も読めない?
現在まで、ヴォイニッチ手稿にはさまざまな解読説が発表されています。
しかし、手稿全体を一貫した方法で読み解き、その内容が学術的に広く認められた完全な解読はありません。
そのため、現在も「未解読の写本」として扱われています。
ヴォイニッチ手稿は何語で書かれている?
分かっていません。
既存の言語を特殊な方法で記したもの、暗号、未知の言語、人工言語など、さまざまな可能性が考えられてきました。
そもそも意味のある言語なのかについても議論が続いています。
ヴォイニッチ手稿の日本語訳はある?
ヴォイニッチ手稿の文字自体が確実に解読されていないため、内容を正確に翻訳した日本語版は存在しません。
インターネット上などで「ヴォイニッチ手稿を翻訳した」とする文章を見かけても、それが学術的に確立された翻訳なのか、独自の解読説なのかを区別する必要があります。
原本の画像については、所蔵するイェール大学によってオンライン公開されているため、日本からでも見ることができます。
ヴォイニッチ手稿は本物?
ヴォイニッチ手稿そのものは、実在する歴史的な写本です。
羊皮紙の放射性炭素年代測定では、15世紀初頭に由来すると考えられる結果が得られています。
ただし、「古い写本である」ことと「書かれている文章に意味がある」ことは別問題です。
本当に何らかの知識を記録した文書なのか、暗号なのか、あるいは意味のない文章なのかについては、現在も決着していません。
まとめ|ヴォイニッチ手稿は今なお残る「本物の謎」
今回は、世界で最も謎めいた写本の一つとして知られるヴォイニッチ手稿について紹介しました。
ヴォイニッチ手稿には、正体不明の文字をはじめ、奇妙な植物、天体や星座を思わせる図、液体の中にいる人物、薬品の容器のようなものなどが描かれています。
羊皮紙の年代測定では15世紀初頭に由来すると考えられる結果が得られており、単なる現代の創作物ではありません。
それにもかかわらず、
誰が作ったのか。
何語で書かれているのか。
何が書かれているのか。
そもそも文章に意味があるのか。
こうした根本的な疑問に、現在も決定的な答えは出ていません。
これまで暗号研究者や言語学者をはじめ、多くの人々が解読に挑戦し、近年ではコンピューターやAIを利用した研究も行われています。
「解読に成功した」という説も繰り返し登場してきましたが、手稿全体を一貫して説明できる、広く認められた完全な解読には至っていません。
宇宙人や異世界、失われた文明などと結び付ける説もありますが、それらを裏付ける確かな証拠が存在するわけではありません。
むしろヴォイニッチ手稿の最大の魅力は、超常的な説明を加えなくても十分に不思議であることです。
約600年前に作られた一冊の写本が残されているのに、現代の私たちはそこに書かれた文章を読むことができない。
そして現在では、イェール大学が原本のデジタル画像を公開しているため、誰でもその謎を自分の目で確かめることができます。
いつの日か新しい資料の発見や研究技術の進歩によって、その内容が明らかになる日が来るかもしれません。
それまではヴォイニッチ手稿は、人類の歴史に残された**「まだ答えの分からない本物の謎」**として、人々の想像力を刺激し続けることでしょう。



コメント